クリスマス

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 父母の夫婦げんかに辟易して朝を過ごした。いつものことと思いつつ今日はクリスマスイブでやるせない気持。加えて今日は車検で車をディーラーに持って行く煩わしさがあり、台車での帰り、けんかが続いていないか心配しながら運転するのはかなりの心労である。  リビングでテレビを見ながら日中を過ごしていた父を和室で過ごせるように部屋の模様替えをした。けんかの理由は母の家事の音がテレビを見るのを邪魔するといって父が怒号をあげるのだ。父が和室で過ごすことで母との距離が保てけんかが少しでも減ることを神様に祈る。  気分がすぐれないので早めに薬を飲み床に就いた。目が覚めたのは夜中の1時、クリスマス。もうひと眠りしようと思うと酒の力を借りる必要がある。酒を買いにコンビニに向かって夜道を歩いた。  交差点の信号越しに見えるコンビニの明かりはいつもと変わりない。足を進めると人気のない駐車場の車止めに老人が座っている。夜中の1時、こんな時間に・・・。買い物を終え交差点に向かったのだが老人のことが気になってならない。遠目に見ると老人のひざ元には半透明のレジ袋が置かれており中には赤い箱が入っている。クリスマスケーキか。声をかけることができない。勇気が出ないのだ。近くに交番がある。引き返してお巡りさんに話しをすることにした。  交番の引き戸を開けるとかなり大きなチャイムが鳴る。少し目を上げると監視カメラがある。お巡りさんはいない。テーブルには電話が置かれており、不在の場合は警察署につながるという。  「もしもし」  「はい、○○警察署です。」  「今○○交番にいます。」  「はい」  「隣のコンビニの駐車場に男の老人が座っています。」  「はい」  「こんな夜中に心配になって、声をかける勇気がないので電話しました。」  「そうでしたか、すぐこちらで対応します。あなたのお名前は?」  「○○です。」  「携帯番号は?」  「○○です。あのー老人は誰かを待っているような雰囲気なんですがはっきりしません。」  「そうですか。分かりました。こちらで対応します。」  「私、帰ってもいいですか?」  「いいですよ。」  「よろしくお願いします。」  あの老人、どんなクリスマスを過ごすのだろう。そう思うとともに何故か和室に床を移した80手前の父のことが頭に浮かんだ。
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