1 紅白ゴスロリ双子ババア

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 近隣住人に取材をしたところ、例によって近所の名物婆さんだった。このSNS全盛の時代によくもまぁネットの晒し者にもならず、ぼくたちみたいなテレビマンの目にもよく入らなかったものだと驚くばかりである。 ただ、話を聞くと近所で見るのは「ゴミ捨て場からゴミを持って帰るゴスロリの赤い老婆」のみで「白いゴスロリの老婆」のことは一言たりとも聞くことが出来なかった。むしろ「あら、あそこのお宅は一人暮らしじゃなかったの?」と、言われる始末であった。 赤い老婆はAさんの話が本当だとするなら蝋人形。ならば、近隣住人が見ると言う「赤い老婆」は何なのだろうか。 帰りのワゴンの中で田中さんにそれとなく聞いてみたら「あの婆さんの外行きは赤のゴスロリなだけだろ?」と軽く流されてしまった。 テレビ局に帰り、ぼくは素材(映像テープ)をディレクターに渡した。ディレクターは苦笑いに苦笑いを浮かべながら淡々と編集作業を行う。 それからナレーション担当の声優さんに私がキャプションしたセリフからディレクターに原稿を作ってもらい、ナレーションを入れて貰ったのだが「え? 何これ? ゴスロリ系アニメDVDの特典ですか?」と、苦笑いをされてしまった。 そしてオンエアの日がやってきた。取材を担当したAさんは司会に相槌を打つかのようにあの時の体験を語る。ただ、白い老婆のミュージカルや赤い老婆の蝋人形にしがみつかれたことは、一切語らなかった。 ディレクターが「あくまでウチの番組は怪奇特集じゃなくて報道だから」と言うことで、赤い老婆の存在は編集で綺麗にカットされてしまった。勿論「ミュージカル」に関しては全く触れない。近隣住人のインタビューも「臭くてたまらない」「お婆さんがゴミ捨て場からゴミを集める」「早く行政代執行をしてほしい」と言った赤い老婆のことは触れないものばかりを選んだ。 テレビを観る限りでは赤い老婆の存在は一切ないものとなっていた。あったとしても白い老婆をインタビューする映像の背景に赤い老婆のスカートが僅かに見切れているぐらいである。
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