1 紅白ゴスロリ双子ババア

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「お疲れ様ですー。取材先、もう少し先でしたよね?」 田中さんは肩に乗せたテレビカメラから顔を背けるように言った。 「生ゴミ系だよ。玄関の前にもうゴミ袋の山・山・山! 垣根からも山になったゴミが見えるぐらいだ。臭いも生ゴミ系でな」 つまり、想像を絶する臭さ故に逃げ出してきたと言うことである。ベテランカメラマンである田中さんはこのようなゴミ屋敷でカメラを回したことは一回や二回じゃない。こんな人が「ゴミ屋敷が臭い」と、言って逃げるはずがない。Aさんの我儘につきあわされた形だろう。 「すいませ~ん! もう別の人に取材変わって貰っていいですか~」 Aさんが嫌がったのか。新人アナウンサーが初めてのゴミ屋敷の取材に行けばこうもなろう。しかし、こんなことをテレビ局が許すはずがない。これから行くゴミ屋敷の取材映像が無いと、明日のワイドショーのワンコーナーに穴を空けてしまう。まさかテレビ局に電話して他のアナウンサーを今更呼ぶわけにもいかない。 ぼくと田中さんで必死に説得し、どうにかAさんに取材を続けさせることに成功した。  さて、ぼくも件のゴミ屋敷の前に立っているのだが、生ゴミ系のゴミ屋敷故に臭いが酷い。飲食店の裏側にある生ゴミを入れるポリバケツ、それの臭いを数十倍にしたような異臭が鼻腔を襲う。痛みすら感じるぐらいだ、鼻炎や蓄膿症で鼻の奥が痛みだす感覚とよく似ている。  人間の体はよく出来ているもので、三分もその場にいれば臭いに慣れてしまう。ぼくも田中さんも「(くさ)い」とは感じるものの慣れ、鼻を押さえずともその場にいることが出来るようになってしまった。実はぼくも何度かゴミ屋敷の取材に行っているおかげかもしれない。Aさんだけは半分涙目を浮かべながら、ずっと鼻を押さえ続けていた。鼻栓を使わせたいところだが、アナウンサーが鼻声と言う訳にはいかない。我慢してもらうことにした。 「じゃ、ゴミ屋敷の主人に会いに行こうか」と、田中さん。 Aさんはゴミ屋敷のインターホンを押すが、うんともすんとも言わない。インターホンが壊れているようだ。 Aさんは仕方なく、玄関の引き戸を ごんごんごんごん と、強めの力でノックをする。 しかし、家の奥より家主が出てくる気配はない。今度は声を上げながら、先程と同じノックをする。 「ごめんくださーい!」 普通ならアポイントメントを取ってからの取材なのだが、今回は主人とコンタクトを一切取ることが出来なかったので、突撃取材と言う形になった。
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