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「はぁーい、どなたさまー?」
中から老婆の声がした。玄関を開けたのは歳にして七十、八十ぐらいのしわくちゃの老婆であった。
ぼくはその風体に驚いた、上から下まで真っ白なゴシックロリィタのワンピースなのだ。
胸まで伸ばした髪は真っ白な白髪でゴシックロリィタのワンピースの白とほぼ同じ、失礼ながらしわくちゃの老婆が着る物では到底あり得ない。顔も髑髏に筋肉を付けずに薄皮を貼っただけといった感じであった。それ故に目も窪みが凄い、それにも関わらずに桃色のアイシャドーを塗り、ラメのついたマスカラをまつ毛にこれでもかと塗りたくりキラキラと輝いている。鼻も老人らしく垂れ下がり大きくなっている、鼻先のブツブツも目立ち苺そのものであった。唇は雪の上に血を垂らしたような真っ赤な口紅、顔全体にドーランか白粉でも塗りたくったような色白、頬には薄い頬紅が赤く輝く。本人は若作りのつもりかも知れないが、厚化粧の化け物にしか見えない。
ああ、町の変わり者か。ぼくだってAD歴は長い、このような「イタイ」人の取材には何度か同行したことがある。その類にぶつかってしまったかと心の中で溜息を吐いた。
Aさんは恐縮しながら言った。
「突然申し訳ありません。テレビ○○のAと申します。取材の方をさせていただきたいのですが」
Aさんは名刺と菓子折りを老婆に渡した。老婆は名刺をじっと眺めた。訝しげな顔をし、表、裏とじっと名刺を見回す。
「はい、いいですよ」
「それで、カメラの方を入れてもよろしいでしょうか」
老婆はあーあーと言うかのように頷いた。その時に口を開いたのだが、歯抜けが目立っていた。すきっ歯と言っても良い。これだけ歳を召していれば歯が抜けるのも仕方ないだろう。
それ故に滑舌はかなり悪い。
「はい、どうぞ」
取材OKが出た。普通、この類のゴミ屋敷の主人は何かと言って取材を断る傾向にあるのだが、今回は上手くいき、ぼくは安心した。
「ささ、中へどうぞ」
とは言うが、廊下にも生ゴミ系の臭いを放つゴミ袋が積まれており、足の踏み場もない。しかも、ゴミ袋はところどころ破れたものがあり、得体の知れない生ゴミがそこからはみ出ていた。正直な話、靴を脱いで家の中に入ることに激しい抵抗を覚えるぐらいである。
老婆はと言うと、例によって真白い厚底のロリータブーツを履いていた。すると、老婆が我々に一言。
「土足でいいですよ。日本の靴脱ぐ習慣には未だに慣れなくて」
我々は苦笑いをしながらゴミ屋敷の中へと足を踏み入れた。廊下は板貼り、ゴミ袋とゴミ袋に挟まれた僅かに見える隙間からそれを確認出来るだけであった。
老婆の言葉から推察するに靴を脱ぐ習慣の無い国出身だろう。正直なところ、ゴシックロリィタの化粧が分厚いせいでどこの国の人かも判断がつかない。
ゴミ袋に塗れた廊下を歩くこと数秒、我々は応接間に通された。
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