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すべての事象はエロスが内在している。それは私の祖父がいつも言っていたことだ。
トレジャーハンターだった祖父は、底抜けの探求心からあらゆるものを発掘し、世間に発表してきた。ある時は島に隠された遺跡、ある時はコインロッカーに残された俳優のプライベート写真、またある時は空に浮かんだ未確認飛行物体――ジャンルを問わず、何かが何かに隠されていれば、決まってそのベールをはがしてきた。
彼は、一部の学者から嫌われていた。とりわけ、考古学者と歴史学者に嫌われていた。彼の発見は、幾度も歴史の定説を覆してきた。例えば、以前にピラミットは正四角錐でできている――という通例があったことを覚えている人はいるだろうか。各頂点が東西南北を正確に差している。これこそがピラミットの不思議である! と、多くの考古学者や歴史学者がその神秘性に興奮していたのだ。しかし、祖父はその定説をいともたやすく覆してしまった。なんと、五角錐のピラミッドを578個も見つけてしまったのである。そのほとんどは視認できないほどに失われてしまっていて、だから学者が到底見つけられなかったのであるが、祖父は常軌を逸した好奇心のビームを全世界に撃ち込み、五角錐のピラミッドを見事発見したというわけだ。しかし、祖父がすごいのは発見することだけではない。無論、発見しただけでは、視認できないピラミッドの存在を世間に信じてもらえなかったことだろう。ここで祖父は、もうひと手間自らの仕事に手を加える。彼は、手のひらを前に突き出し、全身の血管に流れるヘモグロビンを全指先に集中させ、すべての事象はエロスが内在している――と唱える。すると、あたりがまばゆい光に包み込まれるのだ! 後世の人間はその光を「神の光」と呼んでいた。神のように、裏表を含めてすべての真理を照らし出すからということなのだろう。そして――神の光は無事、五角錐ピラミッドを顕現した。考古学者や歴史学者は膝をついてその場に倒れこんだ。宗教家は新たな啓示の宣託に床に顔を擦り付けた。そうして、正四角錐のピラミッドは多くの五角錐のピラミッドの失敗作であるとみなされるようになり、元あったピラミッドの不思議は全てオカルトとなって消えてしまったというわけだ。
――信じられないことに、これすらも祖父の数ある偉業の一つであるに過ぎなかった。祖父はこんな調子で次々と定説をひっくり返し、学者を泣かせてきた。もちろん、それに反比例して世間は大いに盛り上がった。祖父が、次はどんな方法で学者を葬り去ってくれるのか。しかし、そんな彼も二年前に死んでしまった。死ぬ間際、体力の弱っていた彼は学者の妨害を恐れて、山奥の、自らが発見したエドンマーティヌの墓の中で療養していた。彼には子供と孫が九百人いたが、私を除いて、誰もその墓に呼ばなかった。なぜか私だけ――夢で墓に来るように言付けされた。今となっては記憶はおぼろげだが、その時の夢ではっきりと覚えている言葉がある。
――イリア、お前はエロスに選ばれた神の使徒だ。内在するエロスをすべて暴いていく必要がある。
私は半信半疑になりながらも、言いつけ通りに祖父を見舞いに行った。そして、彼はそこにいた。髪の毛はほとんど禿げ上がり、体はほとんど骨と皮だけになって、もう幾ばくも生きられないといった様子だった。しかし、彼は私の姿を認めると、とたんに目を丸くして立ち上がった。呆気にとられる私に、彼はこう言った。
「よくぞ――来た。お前に託したいものがある」
「え……なんですか?」
私が聞いても、彼は答えず目をつぶって手のひらを私に突き出した。神の光だ――と思った。生で初めて見るそれは、パワーに満ち溢れていた。体の底が厚くなるような――生々しい感覚。彼は例のあれを唱え、指先に力を込める。
「お前も覚えておけ――エロスは、この世界のいたるところに遍在し、お前はそれを発見する義務がある」
彼がそう言い終わるや否や、神の光は墓の中のすべてを照らした。私は一歩も動けず、その場に立ち尽くした。――多分、数時間は気を失っていたのだろう。目の前が元通りになったときには、祖父は死体となって冷たく硬直していた。私は祖父に手を合わせると、何となしに自分の手のひらを眺めてみた。特に変わっている様子はなかった。しかし――目の奥に、何か熱いものをかすかに感じたのを覚えている。もしかしたら本当に――祖父の力がこの身に宿ったのかもしれない――とその時は思った。だが、それから二年間、私が特別な力を発現することはなかった。今ではもう、祖父自体が夢だったのではないかと思い始めていたのだった――
「――ねえ、イリアさんが金持ちだって噂、本当?」
「へ!?」
大教室でボーっとしていた私は不意に話しかけられて飛び上がった。急いで振り向くと、ショートヘアーをキャラメルモカブラウンに染めて、ふわっふわの真っ白いガーリーコーデに身を包んだ女性が立っていた。これは、クラスメートのアスカだ。目立つから嫌でも覚えている。
「そんな驚かなくってもいいじゃん」彼女は口をとがらせて言った。
「何?」私は眉間に力を込めて睨む。こいつは、大学のほとんどの人間がリストインしている”嫌いな人間リスト”の中でも上位に食い込むレベルで嫌いだった。視線がどうも気に入らない。男子に媚びたような眼をしているくせに、明らかに女子を見下している。典型的なぶりっ子タイプだ。
「何!? ねえ、まだ私、何にも言ってないよね!?」アスカは首をペコちゃん人形のように揺らしながら言った。赤ちゃんか。
「何もって、あなた、たいして仲良くもない私に、急に「金持ちなんですか?」って聞いてんじゃない」
「確かにそうだったね……」ん? なんだ? 意外と物分かりがいいのかこいつ? ――いやいや騙されるな。こいつは効率厨のクソマキャベリストなのだ。言葉の裏に、何を隠しているか分からない。
「でも、その黒髪ロングに、黒のワンピース。それでどこか上品さを湛えた顔……これは金持ちに間違いな――」
「いいわ。答えてあげる。私は金持ちじゃない。どう? 満足した?」私は言葉をさえぎって言った。
「しないよ!」彼女は叫んだ。「私知ってるんだから!」
「は? 何を知っているっていうのよ」私は極力イライラを抑えて聞いた。難癖にもほどがある。
「見たの」今度は、彼女は声を抑えて言った。「あなたが――イリアさんがすごいものを持ってるって。ほら、あの有名なトレジャーハンターに……」
「はぁ!?」私は思わず大声を出してしまった。周囲を見渡すと、だべっていた学生がこちらを見ている。まずい――私は彼女の手首をつかみ、無理やり引っ張って大教室から出た。――私は廊下の端に追い詰めて、小声で聞いた。
「ねえ、その話。詳しく教えてくれない?」
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