9話 【夏祭り】

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9話 【夏祭り】

「…うん、決めました! 私、この浴衣(ゆかた)にします!!」 「そっかぁ… やっぱ、コレだよね。  黄葉(おうよう)のイチョウの葉をメインに、ちょうちょの帯。  一葉(いちよう)ちゃんのイメージに ぴったりだと思って、(つく)ったのよ。」 「いつも、ありがとうございます! (かつら)さん。 『夏祭り』 ●8 が、もっともっと楽しみになります♪」 「うんうん。 よく似合ってるわよ、一葉。  あなた、いっつも夏祭りを楽しみにしてたもんね。  『銀杏屋(ぎんなんや) ひがしたに』の おかみさんも、この頃だけは ずっとお休みくれるくらいだし。」 「ですよね、とっち社長。 一葉、私も…ほんとに良く似合ってると思うわ。」 「えへへ…。 めりあさんに そう言ってもらえると、すごく嬉しいです!」 「…私は、どうかな?  正直、和服系のモデルやるのは、初めてなんだけど…。」 「さすが、めりあさん。 ほんとに、何を着ても似合っちゃう!  (みどり)の浴衣、大人っぽくて とっても素敵!  『きれいな お姉さん』に、ますます磨きが かかった感じです。  …さくらちゃんは、どう思う?」 「はい、(わたくし)も、大変良くお似合いだと思いますわ。  めりあさん みたいに、私もいつか『きれいな お姉さん』になれたらなぁーって、いつも 憧れているのですよ。」 「あ…ありがと。 ・・・やっぱ、照れるね。 こーいうの。  そ…そーいう さくらだって、葉桜(はざくら)の その浴衣、オーソドックスだけど…だから、かな? すごく似合ってる!  ちょっと私には、その感じは出せないかなー。  さすが、和服専門のモデルよね。 …とっち社長は、どうですか?」 「もちろん! みんな、サイコーに似合ってるわよ!!!  何より、桂さんにお願いしたのが 良かったんじゃない?  みんなの個性とかイメージに合わせて、これだけ似合うものを創っちゃうなんて、そうそう出来るコトじゃないわよ!」 「桂さん、ありがとうございました!!!」 「う…うん、こちらこそ、ありがとね!  …なんか、改まって褒められると、照れるわね。  でも、気に入ってくれたみたいで、ほんと創って良かったわ!  じゃ、栃実(とちみ)。 発表会で着るのは、コレで良いわね!?」 「桂さーん、『とっち』だってばぁ~。。。  …ま、いっか。 みんな! 今着てるコレで、行きましょ!」 「はい!!!」 「桂さん、じゃあ そーいうコトで!  みんな、着替えて。 歌の練習に合流するわよ!」 「ふふ。。。 相変わらず、アクティブね。  じゃ、私も 夏祭り、楽しみにしてるから!」 「はい! 皆に楽しんでもらえるよう、頑張ります!  夏祭りでも、よろしくお願いしますね、桂さん!」  そう言い残して、とっちは 浴衣から普段着に着替えの済んだ三人を連れて、東谷街道へ。  一方、カフェ『nolia(ノリア)』の オープンテラスでは、間近に迫った歌の祭典 夏祭りに向けて、紅葉(もみじ)(かえで)をはじめとする歌い手たちが、最後の合同練習をしていた。 「・・・それにしても、こならちゃん ほんとに上手になったよね、おねぇちゃん。  私も、夏祭りで一緒に歌うのが楽しみだよぅ…。」 「うんうん! 初めて歌い手になるとは、思えないくらいだよね。  ソロパートの歌詞も、なんだかんだで すんなりできちゃったし。。。」  紅葉は、こなたが初めての歌詞作りにチャレンジしたときのことを、思い返す。 「~私の歌詞は、『風に舞う 枝葉の美』への想いを ぎゅっと詰め込んで、歌詞に落とし込んでみたの。  ♪ モミジ枝葉は、風舞(かざま)いの美。 紅葉(こうよう)~ ♪」 「わ…私は、『風に揺れる 葉音の美』を…表現したつもりです。。。  こならちゃん、少しの(こと)()に、想いを込めるのが、お唄をつくる要点…かと思います。。。  わ…私の歌詞は、 ♪ カエデ枝葉は、葉音の美~ ♪ こんなふうに、してみました。。。」 「コレを歌うんだよ、夏祭りで!  自分が歌うパートは 自分で歌詞をつけて、ね。」 「すてきなのれす!  いっしょに お唄を歌うのが、すんごく楽しみなのれす!」 「…でも。。。 こぉゆうの初めてなので、どんな歌詞にしたらいいか。。。  言の葉も、ぜんぜん思いつかないのれす。。。  とっちさん、夏祭りって… 何をお祝いする お祭りなのれすか?」 「んー。 一言でいえば、『私達が健全に成長できたことへの、感謝』かしらね。  ほら、巫女修養(みこしゅうよう)でも お話ししてたでしょ?  『太陽の恵み』とか、『恵みの雨』とか…。」 「そうれすか・・・。 なら、わたしが ()いたいのは、 ひとつしかないのれす!  それを、お唄にするのれす!」 「うん! すっごく良いと思う!  今の こなちゃんみたいに、元気に成長できた事とかを お祝いして、歌い手がその感謝を言の葉に乗せて、『樹々(きぎ)(うた)』として歌うのよ。」 「それなら! わたしが お唄にしたいのは、『(はぐく)みの()への感謝』なのれす!!  それに、『初結実(はつけつじつ)で ドングリをいっぱい つけたい!』とゆう想いを込めて… これで、良いれすか?」 「…こならちゃんのお唄、できちゃったみたいだね おねぇちゃん。。。」 「だね! こなちゃん、ちょっと歌ってみてくれる?」 「♪ コナラ どんぐり~ ♪」 「いい! 私、コレ好き!! 楓は、どう?」 「私も…好きです。。。  こならちゃん、もぅこれで完成で、良いかと思います。。。  あの・・・とっち社長は、どうでしょうか…?」 「良いじゃない! シンプルに ぎゅっと、こなちゃんの想いが詰まってる! と思うわよ。」 「やったね、こなちゃん! おめでとう。。。」 「えへへ。。。 ありがと なのれす!!」 「んじゃ、こなちゃん。 ちょっと説明しとくわね。  こなちゃんの、サラサラ音の葉音 ★7 なら…高音パートをお願いしよーかな。  ちなみに、紅葉と楓も、同じ 高音パートよ。」 「あと、夏祭りでのソロパートの披露は、峰乃 赤松(みねの あかまつ)様がお聴きになって、秋の『山祭り』での歌い手が選抜される事になるから、しっかりね!」 「うぅ~。 『歌い手になる』って ゆわれると、キンチョーしちゃうのれす。。。  …でもでも、こならは、お唄を楽しく歌えたらって、思うのれす!!」 「うん・・・そうだよね! ちょっと忘れかけてたかも、この気持ち。  …お祭りだもん! 楽しまなくちゃ、ね!!」 「そう! その意気よ、紅葉! 楓もね!  じゃあ、それぞれのパート練習を、楽しんで! しっかりと!  始めましょっか。。。」 「~ずっと、歌い手になる練習してたんだろーね。  ソロパートの歌練(うたれん)も、やればやる程 こなちゃんは・・・。  あ、来た来た! ねぇねぇー! はやく みんなで歌いたいよー!!」  紅葉たちがソロパートの練習をしているところへ、浴衣の最終決定に行っていた とっちと歌い手たちが、戻ってきた。  これで、夏祭りの歌い手が全員(そろ)い、いよいよ 最後の合同練習 『合わせ』へと。 「もぅ、紅葉ったら。 楽しみなのは分かるけど、()かさないでー!  …さて、みんな。 調子は、どうかな?」  のりあは、のんびりした口調で。 「うふふ。 準備は出来てますわ。」  ふたばは、強がってる様子で。 「大丈夫っす! が・・・頑張ります!」  めりあは、自信たっぷりに。 「いつでもOKよ!」  寿美(ことみ)は、緊張しながら。 「が・・・頑張ります!」  一葉は、満面の笑みで。 「はいっ! 楽しみです!!」  さくらは、可憐に。 「すぐにでも歌えるくらいに、お稽古(けいこ)してきましたわ。」  紅葉は、元気に。 「バッチリです! みんなで歌うの、楽しみだなぁ~♪」  楓は、引き締まった表情で。 「・・・はい! 私も、楽しみです。。。」  こなたは、楽しげに。 「みんなで 楽しく、お唄を歌うのれす!!」  瑞貴(みずき)は、優しく微笑みながら。 「ふふっ。 みんな 大丈夫みたいですよ。」 「・・・そうね、こなちゃんの言う通り!! みんな、『楽しむことを、忘れずに!』  じゃ、最終本番リハ『合わせ』、行ってみよっか!!」  楽しんで取り組んできたソロパートの練習も相まって、『合わせ』で歌う最終歌練も、とっち的には十分すぎるクオリティに。 「・・・うん! もう、私が とやかく言う必要はない仕上がりね!  あとは各自、ソロパートに磨きを かけましょう!」  楽しげに ざわめく樹々の葉音に誘われて、ホオノキ巨樹の周囲の そこかしこからは セミが鳴き始め、他の夏の虫達も 鳴く練習を。  やがて虫達の鳴声と樹々の葉音は一体となって、森の大合唱のような心地よい音を(かな)でていた。  夏祭り、当日。  舞台脇の紅白の垂れ幕の中は、夏祭りらしく、オープンで くだけた雰囲気。  この控え所には、すでに峰乃 赤松が到着していた。  とっちや山桜との打合せも終えた今では、祭典の開始を待ちながら、 「浴衣の発表会は、好評だったら今後も続けたい。」 などと話したり、常連の歌い手達とも 唄の仕上がりなどについて、談笑している。  歌い手の皆も 健在で、葉音の調子も良さそうだ。 「…そろそろ、頃合いですね。 では、峰乃 赤松様。 (よろ)しいでしょうか?」 「うむ。」  山桜の問いに、峰乃 赤松が簡潔に(こた)えるのを見ると、とっちは、大平岩(おおひらいわ)の舞台へと上がった。 「さぁ、皆様! 今夏もやって参りました、歌の祭典 夏祭り!!  進行は (わたくし)、皆さんお馴染みの とっちが務めさせて頂きます。」 「それでは、早速ですが、夏祭りの開始にあたりまして、主賓(しゅひん)の峰乃 赤松様より、ご挨拶を(たまわ)りたいと思います。  峰乃 赤松様には、すでにお越し頂いておりますので、お呼びいたしましょう。  皆様、一礼と 盛大な拍手で、お迎え下さい!」  拍手に迎えられた峰乃 赤松は、とっちの隣席となる主賓席へ。  観客席に向き直り、皆の健在ぶりを確認し、(りん)とした声で祭典の開始を告げる。 「今夏も皆、葉も茂り 健在であることが、()(わか)ります。  これらを祝う、此度(こたび)の 歌の祭典、夏祭り。  桜の舞い 同様、皆と共に、心行くまで 楽しみたいと存じます。 「また、今夏より、趣向を変えた祭典を試行すると、伺っております。  こちらも、楽しみにしております。」 「峰乃 赤松様、ありがとうございました!」 「それでは早速! 今夏から、趣向を変えて!  『新作浴衣の発表会』に移りたいと思います!!  制作して頂いたのは・・・ここ壱乃峰(いちのみね)で、物創(ものづく)り といえば…!?  そうです! 皆さん ご存知、桂さん!!」  皆の拍手に迎えられ、控え所から 少し気恥しそうに、桂さんが登場。 「モデルの お三方(さんかた)の、キャラクターやイメージに合わせつつ、より可愛らしく美しく 見栄えするよう、新作の浴衣を制作させて頂きました。」  との コメントに続いて、発表会がスタート。  大平岩を背景に、まずは 一葉が、大きなイチョウの黄葉を 大胆にあしらった浴衣で登場。  ちょうちょの帯も相まって、その可愛らしさを引き出している。 「一葉ちゃん、可愛い! 夏は それ着てお店に出てよ!」 「イチョウの団扇(うちわ)、私も欲しい!  ぎんなんの夏メニューと一緒に…って、どうかな?」  予想以上の大反響となった 銀杏屋の看板娘に続いて、めりあが、シンプルな 翠を基調とした配色の浴衣を着こなし、登場。  持ち前の美しさに 磨きがかかり、大人の女性の魅力を存分に発揮する。 「まぁ、綺麗! 私も これ着たら、めりあさんみたいに なれるかな?」  最後は さくらが、和服専門のモデルとして、桜の舞い同様に 大トリを務める。  落ち着いた濃淡の配色に 葉桜をあしらった その浴衣は、さくらの可憐な美しさを際立たせていた。 「浴衣モデルの皆さん、ありがとうございました!  制作の 桂さんにも、いま一度 大きな拍手を!!」 「新作浴衣のご依頼は、桂さんに どうぞ。  『オーダーメイドも(うけたまわ)りますが、試作した浴衣もいっぱいあるのでその中からお選び頂くこともできます。』 とのコメントを、頂いております。」 「では最後に、峰乃 赤松様から、ご感想を賜りたいと思います。」 「皆、大変善く似合っておりました。  (わたくし)も、夏季は、御務(おつと)め以外では浴衣で過ごしたいと思うほどに。」 「『皆 違って、皆 善い。』  壱乃峰の森の、樹々の魅力を 新たに引き出した趣向と成った、此度の新作浴衣の発表会。  今後とも継続して開催し、また新たな魅力を創り 生み出して頂きたいと存じます。」  浴衣モデル達が 控え所で巫女装束(みこしょうぞく)に着替えて 祭典の歌い手となる準備をしている間に、とっちは、観客に 夏祭りの開始挨拶と、その説明を。 「太陽の恵みや 恵みの雨に感謝し、樹々が健全に成長できた事を祝う、歌の祭典。  その歌い手が歌うは、『樹々の唄』。  独唱(どくしょう)の披露では、歌い手の想いを(つむ)いだ言の葉を、各々がその葉音に乗せて歌い上げます。」 「続いて 『合わせ』とも()われる合唱では、峰乃 赤松様がお歌いになる副旋律に乗せ、歌い手達が順に 主旋律となる 独唱の歌を歌い継ぎます。  最後は全員で合唱し、私達が健在であることや 恵みへの感謝を 樹々の唄に乗せて山の神様にお伝えします。。。」  とっちが 祭典の開始前のアナウンスを終えようとする頃、紅白の垂れ幕の隙間から、めりあが ひょこっと顔を出して、「いつでもOK」のサインを。  それを受けて とっちは、祭典の開始を、樹々の唄 独唱の始まりを 告げた。  歌い出しは、のりあが担当。 ホオノキの樹の恵みを、優しく落ち着いた葉音で歌う。  続いて、ふたばが 低く力強い葉音で アカマツについて歌い、同じく針葉を持つ めりあに つなげる。  めりあは、スギの 立ち姿の美 を歌い、序盤の低音パートは ここまで。  中高音となる、葉音と分枝(ぶんし)の打音を合わせた歌声で、寿美は ケヤキの歌を。  一葉は、大好きな ぎんなんへの想いを込めた、イチョウの歌を。  さくらは、花と葉、そして実りの美や 想いをシンプルに詰め込んだ 桜の歌を、その美しい葉音で可憐に歌い上げ、唄の中盤に 彩りを。  そこに、紅葉のサラサラとした高音の葉音が カットインするかたちで、唄の調子を 高く、高く。  紅葉はモミジの 風舞いの美を、 楓はカエデの 葉音の美を。  一段と高い葉音で、こなたは、コナラの実りと その感謝を、楽しげに歌う。  最後に瑞貴が、中高音の葉音と落ち着いた曲調で、ブナの樹の恵みと 森の調和を歌い、独唱を締めくくった。  観客席から湧き起こる 喝采や 鳴り止まない拍手を受けながら、峰乃 赤松は、歌い手達が待つ 舞台上へ。 「善く、精進なされておりますね。 合わせの歌唱も、期待しましょう。」  と告げると、歌の祭典 夏祭りは、本番となる 合唱へ。  ひとときの静寂の後。  峰乃 赤松の、優雅な枝先に開く 艶やかな針葉は風にざわめき、副旋律となる 優しく美しい葉音を奏でる。 『樹々の唄』  大きく包む、ホオノキの葉。 花も実りも、樹の恵み。  大地に根を張るアカマツの、針葉開く 力枝(ちからえだ)。  スギは真っ直ぐ、立ち姿の美。 実り無くとも、森に恵みを。  天を仰ぐ、ケヤキの枝葉。 風に舞うは、枝先の種。  イチョウの実りは、美味しい ぎんなん。 黄葉ひらり、扇子(せんす)の舞い。  風に舞い散る 桜吹雪。 (みどり)の葉桜、(あか)の実り。  モミジ枝葉は、風舞いの美。 紅葉 ひらひら、種は くるくる。  カエデ枝葉は、葉音の美。 青葉さらさら、そよ風に歌う。  コナラどんぐり、いっぱい実る。 育みの座を、ありがとう。  豊かな森のブナの樹は、木の実も 水も 育んで。 樹々の恵みは、森に調和を。  共に分かち合おう。 太陽の恵みと、恵みの雨。  健やかに育もう、樹々の恵み。 共に歌おう、樹々の唄。 「・・・峰乃 赤松様、歌い手の皆さん、ありがとうございました!  ここで、峰乃 赤松様から、お唄のご感想を賜りたいと思います。」 「うむ。 歌い手の皆、合わせの歌唱も善し、各々の葉音も善し。  より一層の精進を、期待しております。。。」 「…ただいま、山の神様より 言の葉が下されましたので、皆に お伝え致します。」  『壱乃峰の森に活きる樹々よ。   其方(そなた)達が健在であること、善く伝わった。   (これ)から 実りの季節となるが、皆、善い実りを。   ()の身を育んだ 陽光と雨の恵みを、樹々の そして 森の恵みと、いたせ。』  山の神からの言の葉を受け、皆 ひときわ大きな拍手で応える。  夏祭りは 神事も終え、祭典の締めくくりへと。 「実りの季節のあとには、山祭り。  本日のお唄の披露と 山祭りまでの葉音の美しさを、峰乃 赤松様が審査され、山祭りの前日に その歌い手が発表されます。」 「皆様! 山祭りを、お楽しみに♪」  夕暮れ迫る、壱乃峰の森。  人気(ひとけ)も まばらになった 舞台の辺りでは、普段の姿に戻った歌い手たちも手伝って、祭典の撤収作業が続いていた。 「・・・終わっちゃったね、夏祭り。  楽しかったけど、終わっちゃうと 少し寂しいな。。。」  み~ん、みんみん・・・ じわじわじぃ~ かなかなかな・・・  祭りのあとを寂しがる、一葉たち 歌い手の皆を元気づけるかのように、セミの声が。  瑞貴は、楽しげな口調で こなた達に こう説明して、沈んだ雰囲気を(やわ)らげようと試みる。 「セミさん達が歌ってくれているのは、『虫の歌』。  それは、私達 樹々への、食べ物や住処(すみか)を分け与えてくれた感謝の歌なのです。」 「例えば、ちょうちょは 葉を、カブトムシさんは 腐葉土を、クワガタムシさんは 朽ち木を食べて大きくなり、成長して羽化(うか)までできた事への、感謝を。  トンボさんなど 水の中に()む 虫さん達は、豊かな水を育んでくれた感謝を。  言葉を持たない これらの虫さん達は、セミさんを代弁者として、その感謝を虫の歌に乗せて、伝えてくれているのですよ。」 「すてき!」 「…でしょ? こなちゃん。  そして 『良い歌を、ありがとう。』っていう、夏祭りの ねぎらいも。   虫の歌は、樹々の唄のアンサーソングでも あるわね。」 「そっかぁ・・・。 私達の お唄、虫さん達にも 届いてたんですね。  …うん! もう、寂しくない! 次の夏祭りが楽しみです、とっち社長!」 「その意気よ、一葉! そして、私達の夏は、まだまだ これから!  そのあとには 実りの秋も控えてる。」 「じゃ、片付けは この辺で。 今日は もう、解散にしましょ。  最後に、一言。 『楽しむことを、忘れずに!』 みんな、またね!」 「はい、またね!」  夏祭りの舞台だった、大平岩を後にした 歌い手たちを見送るかのように、虫の歌は 祭りのあとの壱乃峰の森に、陽が沈んでも木霊(こだま)していた。 =================== ★7 こなちゃんの、サラサラ音の葉音~:  実際の 樹々の葉音は、さらに多くの樹種の葉音や 枝の打音なども同時に聞こえているため、一概には言えません。  また、聞く人々の感性によっても様々に聞こえるため、作中では 葉の厚みやその形状などからイメージして、葉音やソロパートの割り振りをしています。 ●8 『夏祭り』  盛夏に吹く大風に乗せて 樹々がざわめく様を、歌の祭典 夏祭りとして作中では描写しました。  夏祭りに意味を持たせるため、「太陽の恵みや 恵みの雨に感謝し、樹々が健全に成長できた事を祝う、歌の祭典。」とし、山祭りでの歌い手の審査や選抜も兼ねるものとしました。  実際の 夏祭りは、先祖の供養や 豊作祈願 虫送り… など、その祭りによって様々な意味合いがあるようですが、作中の 夏祭りは、これらとは違った架空のものであることに、ご注意願いたいと思います。
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