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◇◇◇
その男、河田秀一が仕事を依頼するために、斑尾幻葉の仕事場を訪ねてきたのは、一昨日のことだった。
依頼内容は、呪殺。
斑尾の表向きの仕事は占い師である。首都圏の中心から少しはずれたところに仕事場をかまえ、普通に金運や仕事運も占えば、結婚運なども占う。
その一方で、裏の仕事として、呪殺を請け負っている。
ただし、呪殺は体力も使うし、気持のよいものでもない。だからたいていの場合、「なにか勘違いしておられるのでは?」ととぼけて追い払うのだが、河田については、義理のある知人を介していたため、その手は使えなかった。
「妻を殺した犯人を、呪い殺してほしいんです」
そう訴える河田は、歳は三十代なかば。顔色が悪く、目のまわりとほほが、異様に落ちくぼんでいる。
事情はこういうことだった。
一年前、河田が一泊二日の出張から帰ってみると、妻の彩乃が、ダイニングキッチンで死んでいた。刺殺されていたのだ。床にも壁にも、むごたらしく血が飛んでいた。
警察が調べた結果、空き巣に入った犯人が、帰宅した妻に対し、居直り強盗となって刺し殺したのだろう、ということだった。凶器は台所にあった包丁とみられたが、犯人が持ち去ったらしく、その後も見つかっていない。
捜査本部が立って、捜査が行われたが、犯人は捕まらなかった。
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