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それから一年。
捜査本部はとっくに解散し、事件を担当していた刑事が、ほかの捜査の合間に、ときどき当たってくれているらしいが、要は迷宮入りである。
「妻はそのとき妊娠していました。ぼくは妻と子を失ったのです。どうしても犯人に復讐してやりたい。警察が犯人を捕まえられないなら、先生に、犯人を呪い殺してもらいたいのです」
河田の必死の懇願に、斑尾はことさらに顔をしかめて見せた。
それを見て、河田はあわてた。
「いや、お金は、なんとかします。二百万……でよろしかったですか? 必ず払いますから」
「いや、お金の問題じゃないんです」
斑尾はしぶった表情をくずさず、言葉を続けた。
「河田さん、呪いというのはね、相手がわからないとかけられないんですよ。誰が犯人かわからないんでしょ? 日本の――いや、日本に住んでいないかもしれない、世界のどこにいるかもわからない、男か女かもわからない人間を呪い殺す、というのは、少なくとも私には無理な話です」
「それは、逆に言うと、相手が特定できるものがあれば呪うことは可能、ということでしょうか?」
「……まあ、そういうことです」
相手が特定できないから犯人が捕まらないのではないか、と思いつつ、斑尾はそう返事した。
すると河田は現場へ来てほしい、と言い出して、結局斑尾は、首都圏の郊外にある彼の家へ行くことになったのだった。
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