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◇◇◇
「これです」
河田の家のダイニングキッチンで、彼がさし示したのは、床の足あとだった。
安っぽいプリント合板の床板の上に残る、嫌な具合に黒ずんだ足あと。
間違いなく、血のシミでできている。
河田彩乃を刺し殺した犯人は、床にできた血だまりに足を踏み入れ、あわてて下がった。履いていた靴下は血に濡れ、それが床に足あとをつくった。そのまわりには、床でゴシゴシと足をぬぐったあとがあり、そのなかで、ひとつだけまともに足あとが残っているのだった。
「どうでしょうか、先生? これ、成分は妻の血かもしれませんが、犯人の足あとであることに間違いないのです。この足あとを使って相手を呪うのは無理でしょうか?」
斑尾は「ふうむ」とうなって、口をへの字に曲げた。ある人に「あなたはときどき泣いているような顔をする」と言われたことがある。これが斑尾のくせだった。
「河田さん」
「はい」
「人間の体は汗をかきます。なかでも足は大量の汗をかく。靴を履いていても、足から出た汗の成分が靴を透過して地面に落ちる。警察犬が匂いを嗅いで人間を追跡できるのは、そういう汗の成分のおかげでね。ただし、時間がたてば、その成分が蒸発したり、雨に流されて消えていく」
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