聖なる朝に、

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「…………」  畳もうと持ち上げたとき、ふわりと香る柔らかなにおいに、ほんの少しだけ頬が弛む。さっきまでのとげついた気持ちが、宥められて薄れていく。  不思議だな、と思う。どれだけいらいらした気持ちでいても、こうして彼女の気配を感じればたちまちそれは消えていく。  それは、まるで魔法のようで。  随分と浪漫的(ロマンティック)な言葉を思い浮かべた自分に苦笑しながら、立ち上がろうと左腕を畳についた刹那。 「桃? 起きた?」  扉の外から、声がした。決して高くはないけれど、透き通っていてまっすぐな声の輪郭。  その質問には答えずに、ゆっくりと立ち上がって薄紅色の半纏を小脇に抱え込む。少しだけ空いた扉の隙間から差し込んでいた光が、彼女の陰で遮られてチラつく。  きっと耳をそばだてているんだろうな、と思った時、ひとつ悪戯(いたずら)を思いついた。  足音を立てないように扉に忍び寄り勢いよく扉を引いた。
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