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「危なくないよ、だって俺が絶対支えるもん」
「…………っ、阿呆」
馬鹿の次は阿呆ときた。
すっぽりと俺の腕の中に納まっている小梅は、恥ずかしそうに真っ赤な顔を背けながら、嫌がるように体をよじって逃げようとする。けれど、その動きはいつもに比べて、とても小さくて。
「……小梅、本気で逃げようとしてないでしょ」
「うる、さい、」
いつも、こうやって悪戯をしたとき、小梅はするりと俺の腕の中から抜け出していなくなってしまう。体術に長けている小梅が俺の腕の中から本気で逃げ出そうとしたら、俺なんか一溜りもない。あっという間に地面とご対面だろう。
「…………」
小梅が俺の傍からいなくなるかもしれない、と心に揺らぎが生じるのは、大抵、あったものがなくなったときだ。例えば、腕の中に在った柔らかなぬくもりが、残り香だけになる、そんなとき。
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