聖なる朝に、

4/8
前へ
/8ページ
次へ
「危なくないよ、だって俺が絶対支えるもん」 「…………っ、阿呆」  馬鹿の次は阿呆ときた。  すっぽりと俺の腕の中に納まっている小梅は、恥ずかしそうに真っ赤な顔を背けながら、嫌がるように体をよじって逃げようとする。けれど、その動きはいつもに比べて、とても小さくて。 「……小梅、本気で逃げようとしてないでしょ」 「うる、さい、」  いつも、こうやって悪戯をしたとき、小梅はするりと俺の腕の中から抜け出していなくなってしまう。体術に長けている小梅が俺の腕の中から本気(・・)で逃げ出そうとしたら、俺なんか一溜りもない。あっという間に地面とご対面だろう。 「…………」  小梅が俺の傍からいなくなるかもしれない、と心に揺らぎが生じるのは、大抵、あったものがなくなったときだ。例えば、腕の中に在った柔らかなぬくもりが、残り香だけになる、そんなとき。
/8ページ

最初のコメントを投稿しよう!

8人が本棚に入れています
本棚に追加