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天邪鬼が鎌首をもたげて、喉の奥からそんな言葉を押し出した。ぽつりと落ちた音に、僅かに身をよじっていた小梅の動きはいきなりピタリと停止した。俯いた頭が小さく揺れて、艶やかな髪の毛がさら、と肩を滑り落ちる。どくん、と心臓が大きく鳴る。
「逃げる訳、ないだろ」
小梅は、俯いたまま、俺の胸元でそっと言葉を紡ぐ。
「……小梅?」
「――……だって今日は、クリスマス、だから……私から桃にあげられる贈り物って、このくらいしか、思いつかなくて」
その言葉に、安堵の溜息が零れた。肩の力が抜ける。
ああ、もう。小梅は、俺の不安をちゃんとわかってくれる。そうして、こうやってそれに寄り添ってくれるんだ。
俺の身体の強張りが取れたのを感じたのか、小梅の顔があがる。逸らされていた瞳が、ゆらりと動く。小梅の睫毛が空気を撫でて、甘く潤んだ紅色が、俺を射止める。
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