第一話 夢占い

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(……時計?)  カチコチ、カチコチ。壁に一つ飾られた振り子時計が揺れるたび、言い知れぬ焦燥感が微かに胸をざわつかせた。まるで、「早く、早く」と急かされているかのよう。  それからは三日おきに一つずつ時計が増え、狭い室内の壁を埋めていった。  いいや、それだけではない。もう以前の変化からどれくらいの間隔が空いているのか、遡って日付を数えるのも煩わしいのだが、部屋の中は少しずつ変わっていった。  突如、部屋の真ん中にぽつんと現れた椅子も変化の一つ。私の髪と同じ、薄く赤みを帯びたココア色。誰に促されたわけでもないのに、自然と「これは私のために用意されたものね」と理解し腰掛ける。  カチコチと主張するたくさんの時計の声に耳を傾けながら、その日も『誰か』を待っていた。  そして、今から約三ヶ月前に起きたのが一番大きな変化。 「アリス……」  今まで私しか居なかった夢の中の部屋に、ロリーナ姉さんが現れたのだ。 (姉さん……!)  彼女は、私の自慢の姉。  とても穏やかな人で、常に笑顔を絶やさず、怒りのままに声を荒げる事など滅多にない。いつでも相談に乗ってくれるし、頭だって撫でてくれて、毎晩「おやすみなさい」の前に力いっぱい抱き締めてくれる。暴力なんてものとは当然、無縁で……本当に優しくて、あたたかくて、“お母様”とは正反対の人。  私は、そんなロリーナ姉さんの事が大好きだ。
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