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いわゆる、天然パーマと呼ばれる類だろうか。無造作に跳ねた黒髪から天に向かって真っ直ぐ伸びるのは、どこからどう見てもウサギの耳だ。
カチューシャにしてはやけにリアルね、と思いかけた私の心を覗き見でもしたかのように、男の頭から生えた二本の黒い兎耳は意思を持ちぴょこりと動いて見せる。
緩やかな弧を口元に描き、真っ直ぐに私を見据える赤い瞳を細めてウサギ男はもう一度呟いた。
「どういう意味か。それは、そのままの意味だよ」
不思議と、そのウサギ男への恐怖心は湧いてこない。まるで『私』は知っているかのようだ。
彼が、
「いいや。まだ、ボクの迎えに行く時間じゃない」
それよりも、と言いながらウサギ男の指差した先にあったのは、ウェディングドレスを身に纏うロリーナ姉さんの姿。とても、綺麗だ。どんな花よりも美しくて、宝石の輝きすら霞んでしまうほど眩しい。
夢の中ではあるが、ロリーナ姉さんの嫁入り姿が見られてよかったと歓喜する私とは対照的に、彼女はひどく暗い表情をしていた。
(ロリーナ、姉さん?)
どうして、そんな顔をするの?
「……助けて、」
何度目かになる、ロリーナ姉さんの懇望。私が口を開くよりも早く、その切なる願いに言葉を返したのは、
「ごめんね。ボクには、もう……どうにもできない。間に合わないんだ」
ウサギ男だった。
そして、その意味を問う前に、朝を迎えて目が覚める。
私はいつまでも『知る』事ができない。姉さんが助けを求めている理由も、ウサギ男の正体も、あの言葉の意味も。
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