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「あ、えっと」
女の子たちのざわめきに、「しまった」と思ったけど、もう遅い。フィアンセなんて学校で言うなんて。自分でも納得していないのに。
しばらくはこれでからかわれそうだと思ったけど、仕方ない。それよりも、とにかくオールを黙らせてやりたかった。
「ふーん」
意外そうにつぶやくオールに気をよくして、カリナは少し得意になった。こうなったら、どうにでもなれ。
「ミトは、守り役でもあり、フィアンセでもあるの。だからちゃんと修行もして、それからトリアンテにも一緒に来てくれたの!」
カリナは堂々とそう言った。ミトが聞いたらどう思うだろう。ミトは何事かと、遠くからこちらをチラチラ見ている。だけど今は、このオールをやりこめてやりたい。
「へー。お姫さまは好きな相手もふりまわすんだな。あいつにだってやりたいことくらいあるだろうに。修行のあとはお姫さまのお遊び留学に付き合わされてさ、大変だな」
オールは全く、黙る気配などなかった。どんどん責め立てるように、口を開く。
「結婚するのも本当は嫌なんじゃないのか。お姫さまだからそんなこと言えないだけでさ」
「そ、そんなことないもん」
カリナは立ち上がってオールを睨んだ。もう、周りの女の子たちはしんと見守っているばかりだ。
ミトはもうなにかを察して、こちらに来ようとしている。ごった返す生徒たちが邪魔でなかなか進まない。カリナはもうこの話はおしまいにしたくなっていた。それなのに、オールはたたみかける。
「何でそんなことないって言えるんだ? お前、あいつの気持ちなんて考えたこともないんだろ。家来だから、自分に着いてきて当然だって思ってるんだ。俺に言われて、あいつの気持ちをはじめて考えたんだろ」
カリナはぐっと言葉につまった。確かに、ミトは自分に付いて来てくれるのが当然だと思っていた。フィアンセだって聞いたときはびっくりして、自分はまだ恋したことがないって思ったけど、ミトの方だって勝手に色々決められて迷惑に思っていたかもしれない。
それなのに、自分ばかり取り乱して、落ち込んで。それを慰めてくれたのもミトだった。
ミトは自分の気持ちをあまり話さない。それは、自分が姫っていう立場だから? 守る立場だから? カリナははじめてそう考えた。
「おい、何やってんだよ。カリナさま、大丈夫ですか?」
ミトがカリナの前に立った。
黙り込んだままのカリナに、ミトは不思議そうにしている。オールは「行こうぜ」と周りの男の子たちを引き連れて、食堂を出て行った。カリナは顔をあげられなかった。
寝る時間になっても、オールの言葉が頭をぐるぐるしていた。ミトに直接どう思うか聞いてみたいと思ったけど、やっぱり「私と結婚することをどう思う?」なんて怖くて聞けなかった。自分の気持ちだって分からないのに。
机の横にある窓からは、月明かりが差し込んでいた。学校の庭に植えられた、木の黒いシルエットが見える。
「今日はもう疲れた」
思えば、今日一日で船から降りて、教室のクラスメイトたちやフルラたちと出会い、今はこうして新しい自分の部屋に座っているのだ。
なんだかトチアがぐっと遠くなった気がした。
「ルーサも、この月を見ているかなぁ。それとももう寝ているかな」
キュルルとルーサの鳴き声が聞こえたような気がして、ふふっと笑った。そうしているうちに、やっと眠気がやってきて、カリナはそっとベッドのはしごを上り、布団に入った。
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