ついていけない

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窓から朝日が差し込んできて、目が覚めた。 日の光がトチアよりも穏やかで、「ああ、そういえば私がいるのはトチアじゃないんだな」と一瞬さみしくなった。だけど、布団の中は心地よくて案外いい寝起きだった。  カリナがぼんやりしていると、「朝食に行きましょ」とフルラが声をかけてくれる。身支度をすませて、フルラとマレに連れられ、食堂で朝食を取ってから教室へ向かった。 「あ、ミト」  ミトはすでに教室の前に立っていた。いつもと変わらない笑顔だ。唯一昨日までと違うのが、紺色に緑の刺繍でラインが入った制服を着ていることだ。  カリナも同じものを身に着けている。 「カリナ、制服似合ってる!」 思わずカリナはミトから目をそらしてしまった。昨日、みんなの前でフィアンセと言ってしまったこと、姫だから傍にいてくれるのかもしれないこと、色々な気持ちが混ざっていた。 「どうしたの?」  ミトは戸惑っているようだ。フルラはくすくすと笑う。 「カリナったら照れなくても」 「もう! フルラったら余計なこと言わないで」  フルラの口をふさいだけど、もう遅かった。ミトは不思議そうに聞く。 「カリナが俺に? 照れるって?」 「昨日ね、カリナったら、クラスの子たちに、ミトがフィアンセだって宣言したの」  それを聞いたミトは、「え、カリナがそんなことを……」とつぶやいたきり真っ赤になってしまった。    カリナはみんなにばれないように、「はぁ」と小さくため息をついた。昨日、オールからの言葉に腹がたって、思わずみんなに「ミトはフィアンセ」なんて言ったものだから、クラスメイトたちどころか、初等部中でその噂でもっぱらのようだった。  一目見ようと教室の扉からのぞこうとするクラスメイトが後を絶たなかった。昨日のオールの言葉を思い出す。 「お姫さまは、自分が好きな相手さえも振り回すんだな」  ミトが好きな相手かどうかは、まだ分からない。でも振り回しているのは事実かもしれない。ミトだって修行をしてきて、これからも学びたいことが他にあったかもしれないのに。  今までなんとも思っていなかったのに、そのことが申し訳ないような気がした。  授業がはじまると、フィアンセだとかミトがどう考えているかを気にしている場合ではなくなった。  学校の授業は難しかった。島でタマルから教育を受けていたのが、遊びのように思えて来る。その日最初の授業は、数学だった。ややこしい計算式が、黒板に並んでいる。カリナには何かの呪文にしか見えなかった。 「では、この問題には、入ったばかりのカリナさんに答えてもらいましょうか」  厳しそうな女の先生が、にこやかにカリナを指名する。 「ええっと……」 「あの! アロアさんの妹さんなんですってね。アロアさんはこの学校で一番の秀才ですからね。カリナさんも楽しみです」  アロアはずいぶん優秀な生徒らしい。  焦ってノートをひっくり返すカリナの横で、マレがそっとノートを差し出す。それすら意味が分からずしどろもどろにただ数式を読んでいると、先生はため息をついた。 「カリナさん、もういいです。代わりに、マレさん、答えて」  マレはすらすらと答えた。カリナは下を向いたまま、そっと席についた。
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