ついていけない

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同じようなことが日に何度もあった。先生たちは、「あの秀才アロアさんの妹」ということでカリナに期待し、そして落胆する繰り返し。 そしてカリナは授業にまったくついていけなかったのだ。 「マレごめんね、ノート見せてくれたのに」 「入学したばかりなんだから、仕方ない」  マレは相変わらず無表情だけど、言葉は優しかった。でもカリナの心はズタズタだった。先生や生徒たちの「期待外れ」という表情をみるのが苦しい。 「カリナって、本当にアロアさまの妹……?」  フルラまでそんなことを言い出すしまつだった。 「ほ、本当よ!」 「そりゃそうよね。私、実はアロアさまにとっても憧れてるの」 「え、アロアに?」 「うん。勉強もできて、綺麗で優しくて、本当に完璧なんですもの」  フルラはまるで恋するようにうっとり言った。そんなに? とカリナは驚いた。 「だから、アロアさまの妹と同室だなんて、本当にドキドキしていたの!」 「……似ていないくて悪かったわね」  なんだかいじけた気持ちになって、カリナはツンと言った。 「あ、ごめんね! カリナはカリナでとっても好きになりそうよ! ね、だから許して!」  慌てたフルラの様子が可愛らしくて、カリナは思わず笑ってしまった。 「もう少ししたら、きっと慣れるわ。今夜、図書室で勉強会しようよ。何が苦手?」  フルラもカリナの顔をのぞきこんでにっこりしてくれた。 「ありがと。でも、何が苦手かも分からないくらい、全部よく分からない」  カリナは顔をふせた。今までは一人で勉強していたから、自分がこんなに勉強が苦手なんて知らなかった。今までやってきたことは、ほんの一部でしかなかったみたい。世界にはまだまだ知るべきことがたくさんある。 そんな自分のみじめさに、とどめをさすような笑い声が響いた。  あの、オールの声だった。 「お前、お姫さまのくせにどの問題にも答えられないのな。アロアさまは成績優秀だっていうのに。本当に姉妹なのかよ」  フルラが慌てたようにオールに向かい「あっち行って」と手で払った。 「……そういえば先生たち、みんな言っていたけど、アロア姉さまってどれくらい成績良いの?」  オールは無視することにして、カリナはフルラたちに聞いた。 「カリナったら知らないの。エリナさまは高等部で一番の成績よ。だから寮のお部屋も広くて立派な特待生の部屋を用意されているの。特待生の部屋って、私一度見てみたいわ」  フルラはまたうっとり言った。無視していたオールが口を挟む。 「フルラ、まだアロアさまに憧れてるのか? アロアさまの部屋がいい部屋なのは成績がいいからだけじゃない。もちろんそれもあるけど……。一番は王族だからだ。フルラ、庶民のお前が頑張ったってアロアさまにはなれねぇぞ」 「そんなの分かってるわ。私はただ……見ているだけでいいの」  フルラはゆっくりと首を振った。オールはにやりとして、カリナの方を向く。 「だからさ、そこの転校生。安心しろよ。お前は、頭が悪くても、高等部にあがったら、ちゃんと特別あつかいされるからさ。いいよな王族は。バカでも特別待遇で」  けらけらとオールは笑うと、周りの男の子を引き連れて教室の外へ出て行った。 「何なのあいつ。私の何が気に入らないの!」  今度は我慢できずに、扉の方をにらみながらカリナは言った。ここへ来てから、何かとオールには突っかかられている。特に、カリナが姫であることが気に入らないらしかった。 「ごめんね。言ったでしょ? オールは王族が嫌いなの。オールは、私と同じで王族じゃないから……。オールは騎士の息子だから、オール自身も将来は騎士になってトリアンテの王に仕えるのよ。だからこそ、色々反抗したくなるんじゃないかしら」  フルラは、目をふせがちにして、金髪の巻き毛をくるりと触りながら答えた。 トチアでは、島のみんなも王族を慕ってくれていたし、村の漁師や農民たちとも仲がよく、村の幼い子どもたちとだって一緒になって遊んでいた。だから、王族だけで嫌われるという理由が分からなかった。 「で、でも。私は王族だけど、オールが嫌ってるトリアンテ皇国とは関係ない! トチアなんて……すごく小さな島国だし」 「うーん。それでも私たちみたいな庶民からするとやっぱり差は感じちゃうかな。まぁ、カリナは気にしなくていいよ。ここでは、みんな一緒なんだから。ほら、校訓がそこに書いてあるでしょう」 フルラが指さす壁には、 〈どのものにも平等に教育を受け能力を発揮できる機会をトリアンテ・アンベール校では提供する〉 と書いてあった。 「その代わり、成績は実力主義よ。お姫さまだからって、赤点は避けられないから、しっかり勉強しなきゃ」  フルラは明るく締めくくり、カリナも無理に明るい声で「うん!」と返事をして笑った。だけど心の中では、「王族だというだけで嫌われることもある」という事実がぐるぐるとしていた。
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