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フルラとマレは、本当に毎日カリナの勉強に付き合ってくれた。夕食のあと、三人で図書室にこもる。なかなか熱心な先生役の二人は、宿題が終わるまで寝かせてくれない。
「じゃあ、今日は化学ね」
フルラがノートを取り出しにっこりする。
「あぁ、私、化学が一番だめ。記号とか覚えられない」
カリナが頭をくしゃくしゃとすると、フルラはにやりと笑った。
「今夜でしっかり覚えてもらうわ」
「フルラは、化学得意だよね」
カリナが聞くと、フルラは「そりゃあ、花を育てるのに化学も必要だからよ」とさらりと言った。
「うち、花を使って香水も作ってるの。そういうときに化学って役に立つのよ」
「へぇ。フルラ、家業を手伝っているんだ」
「学校へ来る前はね。商人の子はみんなそうよ。親の手伝いをして商売を学ぶんだから」
「そっかぁ」
島から出るまで、知らなかった世界だ。
「マレは、学校へ来る前どんなことをしていたの」
教科書をめくっていたマレは、顔をあげると目を遠くに向けた。
「……色々」
普段から口数少ないマレだけど、この話題に関しては特に口が堅かった。何か事情があるのかもしれない。そういえばマレは砂漠の国の王女なんだっけ。カリナはこっそり考える。王族にもきっと、色々あるのだ。トチアとは違うのかもしれない。トチアでは王族や姫といっても、のびのびしていた方なのかもなぁと思った。
「そういえば、このトリアンテの皇子は学校で学んでいないの」
「あら、第一皇子も第二皇子ももう卒業しているわ。第一皇子はアロアさまの恋人なんでしょう。カリナは会ったことないの?」
フルラがくいついてきた。
「うん、まだないよ。どんな人」
「第一皇子は、カッコいいし、柔らかい雰囲気でいかにも皇子さまって感じ。とっても優しそうなの。第二皇子は、少し怖そうというか……きりりとした雰囲気の方よ」
「へぇ。その優しそうな人がアロア姉さまの恋人なんだぁ」
「第一皇子と第二皇子、実は仲が悪いらしいの」
ひそひそ声でフルラが言った。
「私の父がお客さんと話してたわ。今の王から皇子たちの代になるときに、どちらが王となるか争いが起こるかもって。いまでも派閥争いがあるんですって」
「派閥争いかぁ」
自分とは無縁の、遠い話に思えた。国を治めるのに、どうして兄弟で争う必要があるんだろう。仲良くやっていけばいいのに。
「勉強、しないと」
それまで黙っていたマレが口を開き、フルラとカリナははっと、化学の勉強に戻った。
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