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夜に近づくほど、風は強くなり波は荒くなった。
ガタガタと震える城の窓にそっと手をつきながら、カリナは外をながめていた。
「今夜はひどい嵐になりそうだな」
王である父さまが、肩に手を置き話しかけてきてカリナは微笑んだ。
「大丈夫。風と波にはお願いをしておいたから」
「そうか。カリナはもう立派なマウなんだな。たのもしい」
ほめられて、ふふふっとカリナは笑った。父さまはいつも優しくカリナをほめてくれる。
マウの役割を、王以外の城の人にこうして褒められることはあまりない。祈りなんて、気休めだと思っているのかもしれない。漁師や農家の者たちの方が、よっぽど自然の怖さを知っていて、マウという役割のことも大切に思ってくれている。
「今日は父さまの王になったお祝いの日なのに残念。外でおいしい食事をしたかったな」
本当なら祝いの日は、砂浜にいくつものテントを立て料理を並べて、海を眺め音楽を奏でながら食事をする。それがカリナは好きだった。だがこんな嵐では無理だ。
「外での食事はいつでもできる。それに今日は、エウリカが亡くなった日でもある。私としては、祝いより静かに思い出を語り合いたい気分だよ」
父さまと母さまは仲が良かった。母さまがいなくなってしまったこと、やっぱり父さまはまだ悲しいのかなとカリナは顔を見上げた。
「父さまと母さまは、外国の学校で出会ったんでしょう? どんなところだったの? どうやって仲良くなったの?」
「あぁ、エウリカが留学で来ていたトリアンテの学校で出会ったんだよ。今アロアが行っているアンベール校さ」
父さまは不思議そうな顔をする。
「前にもこの話しなかったかな?」
「でも聞かせて。だって好きなんだもん、父さんと母さんの学生の時の話!」
ははっと優しく笑い、父さまはカリナの背を軽くおしてくれる。
「あちらのテーブルで、食べながら話そうか」
「うんっ」
その時、ばたんっと大きな音がしたかと思うと、大臣のタルマが部屋に入ってきた。
「おお、タルマ。そろそろ食事だ。今日は一緒にと思い用意をしておいたから」
王の言葉を遮って、タルマは叫ぶ。
「王! 大変ですっ! 船が港にっ」
「船? こんな嵐の中? 難破船か?」
王の言葉にカリナは顔をしかめた。
「嵐にやられた船が、たまたまトチアに着けるわけない。だってトチアの周りは波が複雑だもん。いったいどこの誰が……」
「あ、あ、ああ」
タルマは息きれぎれになっていて、何を言っているのか全然わからない。
王とカリナが顔を見合わせたとき、ぼたぼたとしずくを垂らしながら、フードを被った人が現れた。
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