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トリアンテの様子
「ここね、E組」
教室は木の重厚そうな扉で締め切られている。耳をつけると、ざわざわと生徒たちが笑っている声が聞こえてきた。
「入らないの?」
ミトが顔をのぞき込んでくる。
「ちょっと緊張して」
「カリナらしくないなぁ」
ミトがからりと笑った。
「他の生徒はカリナより一年早く、ここに入学してる。でも年齢は同じ。勉強にもついていけるはずだ」
「うん……」
トチアではずっと一人で勉強していた。同い年の友だちは、ミト一人だけ。そんな自分が、ここでうまくやっていけるだろうか。
「カリナらしくでいいんだよ」
ミトの言葉が、トチアの風を受けたときのように、すっと胸にはいってきた。
(そうか、私らしく、でいいんだよね)
カリナはすうと息を吸うと、思い切って扉を開けた。
ぎぃっと音を立てて扉を開けると、それまで教室の外まで聞こえてきていたざわめきが急に消えた。生徒たちが、なにごとかとこちらを見ている。
カリナはもう一度息を吸った。
「トチアという国から来ました。カリナです、よろしくお願いします」
教室はまたざわざわとしはじめる。同じ紺色の制服を着ている集団が、こちらを見てうわさしている光景に、カリナは少しくらくらした。
(そういえば、私まだ制服をもらっていない)
トチアで着ていた薄い水色の簡素なドレスが、ここではひどく浮いているように思えた。
「あれが、トチアの第二王女か」
「アロアさまの妹らしいよ」
「アロアさまとは似ていないよね」
そんなひそひそ話が波のように聞こえてきて、だんだんと顔が赤くなってくる。
このクラスに入ることを、よく思われていないのかもしれない。カリナは心配になった。誰も直接話しかけてはくれない。
突っ立ったまま、教室のどこへ座ればいいのだろうかと辺りを見回していると、二人の生徒が近づいて来て、その内一人が口を開いた。
「はじめまして、私はフルラ。トリアンテ皇国にある花屋の娘よ」
フルラという女の子が笑うと、ぱっと周りの空気が華やいだようだった。
(可愛くて花みたいな子……)
一瞬でその子と友達になりたいと思った。
「はじめまして、フルラ。えーと、そっちの子は?」
もう一人の子は、フルラとは違い、全くの無表情だった。短い髪で、きりりとした目。
「この子は、マレ。砂漠の国、ラヤナの王女よ」
マレの代わりにフルラが代わりに答えた。
「よろしくね、マレ」
カリナが手を出すと、マレは黙って手を握ってくれた。相変わらず無表情だったけれど、表情の冷たさとは真逆で、手はとてもあたたかかった。
「私たち二人が、寮ではあなたのルームメイトよ、三人部屋なの。学校のこと、分からないだろうから最初は私たちがカリナのお世話をするわね」
フルラもカリナの手を握ってきて、にっこりと笑った。
「うんっ。ありがとう」
「よかったな、カリナ」
横でミトもほほ笑んでくれた。
(優しそうな人たちで本当によかった)
カリナはふうと息を静かに吐いた。これなら、なんとか友だちを作れるかもしれない。
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