運命の相手って何?

8/21
前へ
/348ページ
次へ
 妹の春奈の結婚式は台風が接近してきてハラハラしたけれど、日ごろの行いが良かったのか秋晴れのいい日和となった。  私が離婚したことは、母が親戚にそれとなく話してくれていたようで、旧姓に戻っていたことについて誰にも何も訊かれずに済んだ。  親族写真を撮るとき、隣に立った八十過ぎの大叔母が「夏美ちゃんも大変だったわね」と労うように手を握ってくれた。  そういえば大叔母も昔、離婚したんだっけ。そのせいもあって、他の親戚たちも何も言わないでいてくれたのかもしれない。  披露宴で意外だったのは、新郎新婦の兄弟姉妹というものはこんなにもちょこまか動かなければならなかったのかということだ。  今まで何回も友達や従兄の披露宴に出席してきたはずなのに、新婦の姉の役割をまったく観察してこなかった自分を恨めしく思ったほど。  プロのカメラマンもいるけれど同時に全部のテーブルを回れるわけではないから、せめて私が新婦側のテーブルを回って、お礼を言いながらお酌をしたり写真を撮ったり。  従兄の子どもたちがぐずり出したら、奥さんと一緒に子どもたちを連れて会場を出てあやしたり。  あっちにもこっちにも目を配らなくてはいけなくて、新婦のお色直しを見てもその華やかさに感嘆する暇もなかった。  だから、春奈が『新婦からの手紙』を読み上げたとき、私にスポットライトが当たったのはまったくの不意打ちだった。 「私は小さい頃、気管支喘息で入退院を繰り返していました。毎日の薬も飲まなくていい、夜中に発作で苦しんだこともない姉をずっと恨めしく思っていました。姉は何も悪くないのに、『同じ遺伝子を持っているはずなのに、どうして私だけ』と姉を責めたこともありました」  春奈の言葉に会場が静まり返り、私は結婚式場のスタッフに促されて両親の横に立つように言われた。スタッフにも手紙の内容は事前に知らされていなかったらしい。もしかして春奈のアドリブなのかもしれない。そんなところも春奈らしいと感じた。
/348ページ

最初のコメントを投稿しよう!

13028人が本棚に入れています
本棚に追加