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「でも、妊娠して産婦人科に通うようになったら、お腹の大きな妊婦さんが連れている小さい子たちに目が行くようになったんです。上の子は下の子が生まれる前から、いろいろ我慢を強いられている。生まれてからは親の愛情を横取りされたみたいに感じる子もいるでしょう。うちのように両親が喘息の私にかかりっきりだったら、年子の姉はどれほど寂しい思いをしてきたことか。やっとそのことに気づきました」
潤んだ瞳の春奈と目が合う。寂しいと言うよりも振り回されたと言った方が正しいかも。一人で留守番できる歳になるまでは、春奈の病院通いにいつも私も連れて行かれた。
待合室ですぐ退屈してぐずり出す春奈を母と一緒に宥めるのは、姉である私の役目だと思っていた。折り紙を折ってみせたり、絵本を読んであげたり。
小さな子どもを静かに待たせておくのは結構大変で、母がいつも持ち歩いていたのはシール絵本だった。
シールを貼っていいのは春奈だけ。「私も貼ってみたい」なんて口が裂けても言えなかった。だって私は”お姉ちゃん”だし、病気じゃないんだから。
「だから私は、新婦からの手紙に両親だけでなく姉への感謝の気持ちも書こうと思いました。お姉ちゃん、ありがとう。これからもよろしくね」
涙で瞼が熱くなるのを感じながら、春奈に頷いてみせた。
立場が変われば、今まで見えなかったものが見えてくる。
二年半前の私の披露宴で、きっと春奈も新婦の妹として会場内を忙しく駆けずり回ってくれたのだろう。
私も新婦の手紙を読み上げたけれど、両親への感謝の言葉だけで、春奈のことは名前も出さなかった。
家族として四半世紀もの間、一緒に暮らしてきたのだから、迷惑をかけたり世話になったりはお互い様だった。
それでもこうして改めて感謝の気持ちを伝えてもらうと嬉しいもので、おそらく親よりも長い付き合いになる妹とは仲良くやっていきたいという気持ちが湧き上がった。
血のつながった姉妹でさえ、言葉にしなければわかりあえないこともある。不満も感謝も、相手に伝えるべきことは伝えないと。
ましてや赤の他人だった夫婦は、そのことをお互いに心掛けなければ続かなくて当たり前。
春奈の手紙の内容は両親との思い出に移っていたけれど、私は時成さんとの短い結婚生活に思いを馳せていた。
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