運命の相手って何?

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 披露宴が無事お開きとなり、私は結婚式場のタクシー乗り場で後部座席の新婦に声をかけた。 「春奈、ノンアル飲んでても雰囲気で酔っちゃうんだから、ほどほどにね! 新井くんはむちゃくちゃお酒に弱いんだから、あんたがしっかりしてないと飛行機に乗り遅れるよ?」  春奈と新井くんはこのままタクシーで二次会の会場へと向かい、今夜は都内のホテルに一泊して明日の朝一番の飛行機でグアムへと旅立つ予定だ。  私の結婚式の二次会で二人は出会ったわけだけれど、今回私は二次会に呼ばれていない。たとえ呼ばれたとしても、自分より年下の子たちとお祝い気分ではしゃぐ気にはなれなかっただろう。 「わかってるよ!」  紫のカクテルドレスに着替えた春奈が口を尖らせたので、私はやっと自分の失言に気づいた。  新井くんのことをよく知っているアピールに聞こえたのだとしたら、マズかった……。  披露宴の最後にグラスワインをイッキ飲みした私の方が酔っているかもしれない。 「ハネムーン楽しんできてね! 新井くん、春奈をよろしくお願いします」  改めて頭を下げると、すでにビールを散々飲まされて赤ら顔になっている新井くんが柄にもなく「任せてください」と胸を張った。 「行ってらっしゃい。気をつけてね!」 「何かあったら引き返す勇気も必要だからな。お腹の子と春奈の命を一番に考えて無理しないように」  両親も身重の春奈を心配して声をかけたけれど、当の本人は気楽な調子で「行ってきまーす」と手を振った。  新郎新婦を乗せたタクシーが式場の角を曲がるまで見送って、さあ私たちも帰ろうかと踵を返した瞬間。  ふと植え込みの陰の人影に気づいた。 「時成さん……?」  思わず溢した呟きに、「え?」と母が振り向いた。 「今、時成さんがそこに。私、ちょっと見てくる。先にクロークで荷物受け取ってて!」  母に言い置いて、私は植え込みに向かって駆け出していた。
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