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「時成さん!」
黒っぽい人影に向かって一声叫んで道路に出ると、いると思っていた人物は見当たらない。
ここは横浜の繁華街に近いので、多くの人が行き交っている。人混みに紛れた彼を見失ってしまったらしい。
見間違えた? ううん、そんなことない。
私があの人を見間違えるはずがない。
どんな人混みでも、どんなに遠目でも、時成さんのことなら一瞬で探し出せる自信がある。
彼が背が高いから、というだけではなくて、なぜか瞬時に見つけ出せてしまうのだ。
そういえば、時成さんの新しい住所は横浜だった。
もしかして、この近くに住んでいる?
まだその辺に時成さんがいるような気がして、私は道路の隅に立ったまま、母が以前送ってくれたメッセージを捜してスマホの画面をスクロールした。
「あった!」
確かに時成さんの新住所は神奈川県横浜市だけれど、この式場の近くではない。
やっぱり見間違えだろうか。何しろ彼とは二か月近く会っていない。
離婚届を出して市役所前で別れたのが、ずいぶん昔のような気がした。
この二か月が長く感じるのは、その間に加瀬さんといろいろあったせいかもしれない。
たった二か月見なかっただけで、あれほど愛した人を私が見間違えるとは思えない。
もしかして……。
時成さんは今日ここで春奈の結婚式が執り行われることを知っている。
招待状の『出席』に丸をして、『おめでとうございます。慶んで(出席)させていただきます』と綺麗な字で書き添えたのは、時成さんだ。
時成さんは春奈とはほとんど話したことがないから、お祝いを言いに来たというわけではなく。
……もしかしたら私に会いにきてくれた?
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