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なかなか諦めきれずに式場の周りの道路をグルッと歩いてみたけれど、時成さんには会えなかった。
もしも会えていたとしたら、私はどうしたかったのだろう。
ただ……元気かどうか確かめたかった。お義父さんが亡くなったのはつい先週のことだ。
時成さんの会社の慶弔休暇の規定がどうなっているかは知らないけれど、うちの職場のスタッフが母親を亡くしたときは一週間ぐらい休みをもらっていた。時成さんの会社も同様だとしたら、今日あたり神奈川に戻ってきていても不思議ではない。
そんなことをつらつら考えながら式場に戻ると、母一人がタクシー乗り場の横で待ち構えていた。父は荷物を持って駐車場に行き、ここまで車を回してくれるらしい。
「時成さんだったの?」
困惑したような母の問いかけに、「ううん」と首を横に振った。
「人違いだったみたい。いろいろあって、時成さんのこと気になってたから、彼だと思い込んじゃったのかも」
時成さんのお父さんのことも、加瀬さんとのことも、親には話していない。
別れる前に加瀬さんが春奈の結婚式の翌日にうちに泊まりにくると言っていたから、押しかけられるのが怖いというのもあって、今夜と明日の晩は実家に泊まることにした。
とにかく今日の一大イベントが最優先だったから、両親には結婚式が無事に終わってからいろいろ話そうと思っていた。
それなのに母が「ああ、お父さんのことね?」と頷いたのでビックリした。
「え⁉ お母さん、知ってたの?」
「この間、久しぶりに森口のお義母さんから電話が来て、『実は家族葬を済ませました』って。あなたと時成さんは他人になったけど、お義母さんとは離婚後もお中元や旬の果物を贈り合ってたのよ。それがいきなり自殺だなんて言うから驚いたわ。夏美も知ってたのね?」
「うん。時成さんの親友が皐月と籍を入れたから、その関係で知らせがきたの」
「え? 皐月ちゃんが⁉ あらまあ、世間は狭いわねぇ。皐月ちゃんや他のみんなは元気?」
母の関心が皐月に移ったことにどこかホッとしていると、父の運転する車が目の前にやってきたので二人で後部座席に乗り込んだ。
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