運命の相手って何?

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「時成さんじゃなかったんですって」  シートベルトを締めてすぐに母が話しかけると、父はホッとしたように息を吐き出して「そうか」と小さく頷いた。  何も考えずに時成さんを追いかけてしまったけれど、両親が私の行動に困惑したのも無理はない。  離婚した元夫が現れたかもしれないことよりも、あれほど辛い思いをしたのに駆け寄った私の方が不可解に感じられたことだろう。 「夏美も森口のお義父さんのこと、お友達の皐月ちゃんから聞いて知ってたんですって。皐月ちゃんのご主人が時成さんの知り合いだとかで」  私が口を開くより先に、母がペラペラと説明してくれた。  また「そうか」と頷いた父は慣れない道で運転に集中しているせいか、いつもより言葉数が少ない。  うちの父は時成さんのお父さんと趣味の釣り談義で意気投合していたから、お義父さんの自殺はショックだっただろうし、同じ父親としていろいろ思うところもあるのだろう。 「それで? 皐月ちゃんたちはどうしてるの? むっちゃんは今年の初めに結婚したんだったわよね?」  重くなった空気を振り払うように、母がさっきの話をまた持ち出した。大学時代の友人たちは家にもよく遊びに来ていたので、母だけでなく父も一人一人の顔や性格まで把握している。  皐月とミナが妊娠中だと話すと、母は一瞬複雑そうな顔をした。私がレスの挙句に離婚したことを気にしているのだろう。  子どもを産むことだけが女の幸せじゃない。結婚しない人生も失敗ではない。  一般論としてはわかっていても、妊娠を望みながらも夫に拒まれ続けて離婚した私を母親として不憫に思っているのかもしれない。  いい歳をして親に心配かけていることは申し訳ないけれど、私は時成さんと結婚したことも、離婚したことも後悔したくない。  どんなに回り道に見えたとしても、人生に無駄な道など一つもないのだと信じたい。  ここ数日の心境の変化で、そんな風に思えるようになった自分に驚きながら、私は両親にお義父さんからの手紙や加瀬さんとのことを話し始めたのだった。
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