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アイドルは自分からアイドルを卒業する。
じゃあ、私は私を卒業することができるのだろうか。
私は橋の上に立っている。
こんなに高いなんて思わなかった。
両足がワナワナと震えている。
始まりはほんの些細なことだった。私は新卒でイベントなどのグッズや販促品を作っている会社に入社した。配属部署の歓迎会の二次会、みんな酔いが回り無礼講のような状態だった。
私のOJT担当となる女性先輩社員の若狭さんから質問をされた。
「高橋さんってN大卒業なんだねぇ」
「はい。でも、私の学部はそんなに頭良くないので……」
有名大学でも学部によって偏差値は異なる。私は一番下の学部だ。謙遜したつもりだったが、質問してきた先輩の顔はひくついた。
私はこの時、言ってはならない事を言ったことに気がついていなかった。
営業職として配属された私は、翌週から先輩に実務を教えてもらうことになったいた。
「高橋さぁん。これ、コピー取っといてぇ〜」
「はい」
私はコピーを取って先輩に渡した。
「若狭さん、こちらでよろしいでしょうか?」
「うん、ありがと〜」
若狭さんは、とても優しくて可愛らしい先輩だ。いつも可愛らしさ溢れるスーツで声もワントーン高くて、キャピキャピしている。6つも年上だとは思えないほど若い。
「高橋さぁ〜ん、ここの行き方調べといてぇ〜」
「はい」
新規で問い合わせが来た客先に訪問するようだ。初めての外出にわくわくしてしまう。ちゃんと挨拶できるだろうか、名刺交換は大丈夫だろうかなど期待と不安が入り混じった状態で私は行き方を調べていた。
「高橋さぁん。メール送っといて」
「はい、分かりました」
私も一緒だから送らなくても良いのではないかと思ったが、自分でも確認しておきたいのだろうと私は思い、言われるがまま調べた行き方をメールした。
10分後、若狭さんは鞄を持って立ち上がった。
「行ってきまぁ〜す」
私は慌てて鞄を持って立ち上がり、若狭さんを追いかけて廊下で追いついた。
「遅れてすみません」
「何がぁ? ってかなんでカバン持ってんの?」
「え? だって昨日一緒に訪問してって課長が……」
「えーそんな事言ってたっけ?」
「はい……」
「でも大丈夫だよ〜。今朝課長には高橋さん忙しそうだし今日連れて行くの可哀想だからって言っといたし」
私が忙しいわけがない。与えられている仕事と言えば若狭さんが溜めに溜めた数年分の見積書の原本のファイリング。
若狭さんは「んじゃ、よろしくね〜」と言って一人でエレベーターに乗った。確かにまだファイリングは終わってないが、私は事務職ではなく、営業職だ。同期は既に何件も客先を回っている。1人出遅れてしまった感が否めない。
私は急いで残りのファイリングを始めた。きっとこれが終わらないと客先訪問もさせてはもらえないだろう。
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