私は橋から飛び降りた

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部屋にかかった出張と書かれたカレンダーを見つめる。あー書き換えるの忘れてたな。初めての出張で浮かれて書いてしまった予定は、私の生活を一新させた。 私は散らばっている彼の服や鞄を手に取り、玄関から靴も合わせて放り投げた。それでも彼は出ていかない。彼は何に縋っているんだろう。きっとあの女だけじゃない。 「俺はお前が好きなんだよ。好きなのはお前だけなんだよ」 こんな時に鼻水を垂らしながら大泣きする男は見苦しい。本当に私を好きならタチが悪い。好きな人の家に女を連れ込んでことを為そうとするなんて救いようがない。でも、この男はそうではなく、私に振られることが許せないのだ。悔し涙だ。振る前に私から振られるなんて想像すらしていなかっただろう。 「早く出て行ってくれますか?」 私はスッキリした。こうやっていつか若狭さんもぎゃふんと言わせることができたらきっとスッキリするんだろうな。その為には頑張らなきゃ。目の前の裸の男に構っている時間はない。今はまだ売上規模は低くても、私にできることは何かあるはずだ。 私はそれから仕事にのめり込むようになった。だが、人生そんなに思うようには進まない。あんな男でも私のハンドミッドくらいにはなっていたようだ。捌け口が無くなった今モヤモヤは積もる一方だった。 「高橋さぁん、これファイリングお願いね〜」 私の担当じゃない書類のファイリングを平然と依頼してくる。 「高橋さん、それって高橋さん担当先だっけ?」 外出から戻ってきた係長が私がファイリングしている書類を見て訪ねてきた。 「えっと、これは」 「あれぇ〜? お願いする資料間違えちゃったぁ。高橋さんも言ってくれればいいのにぃ」 係長は女性だから、おそらく若狭さんの本性に気がついていて私をフォローしてくれているんだと思う。係長のフォローが無ければとっくの昔に私は潰れていただろう。 「係長、先程はありがとうございます」 トイレで二人きりになった時にお礼を言った。 「あー、私もあんなことくらいしかできないけど、困ったら言ってね。あまり長く話してると疑われちゃうから私はこれで」 うちの部署の女性営業社員は係長、若狭さん、私の3人だ。その他、事務職の契約社員の女性数名がいるがそちらはそちらでグループを組んでいるので、私が入る余地はない。
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