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トモミちゃんが異変に気づいたのは、その帰り道でした。
トモミちゃんとホノカちゃんはお家が近所です。なので、帰る時はいつも一緒でした。おしゃべりしながら帰っていた二人でしたが、トモミちゃんがふと見ると、ホノカちゃんのカバンについていたはずの猫ちゃんのぬいぐるみマスコットがありません。
「あれ? ホノカちゃん、猫ちゃんはどうしたの?」
ホノカちゃんはカバンをちらりと見ると、少し口ごもるように言いました。
「なくなっちゃったの」
トモミちゃんは驚いて訊き返しました。
「えっ!? いつ、どこで!?」
「終業式が終わって、掃除が始まる前に見たら、カバンからなくなってた」
あの猫ちゃんがなくなってしまったなんて、それは大変です。トモミちゃんは急いで家に帰って荷物を置いて、同じように一旦家に帰ったホノカちゃんを連れて学校に戻って来ました。
先生に頼み込んで、二人で教室のすみずみまで探します。廊下も、玄関も、校庭も、一生懸命探しましたが、猫ちゃんはいませんでした。
「なかったねー……」
トモミちゃんとホノカちゃんは、通学路の途中にある公園で一休みしていました。通学路に落ちていないか、探していたのです。でも、猫ちゃんのマスコットはどこにもありません。
「トモミちゃん、もういいよ。きっと学校荒らしの泥棒が持って行っちゃったんだよ」
「うーん……でも、もうちょっと探してみようよ」
トモミちゃんがそう言った時。
「君達、何か探し物かい?」
不意にそういう声と共に、ピンクの人影が二人の視界に入って来ました。二人はあっけにとられました。
何故って、その人影はピンク色のウサギの着ぐるみに身を包み、ほうきを手にして公園を掃除していたからです。
トモミちゃんはこの人のことを聞いたことがありました。ウサギの着ぐるみ姿で、ボランティアで公園や道路の掃除をしている人がいる、と。中に入っているのは近所の引きこもりのお兄さんだという噂もありますが、本当のことは誰も知りません。
悪い人ではないのかも知れません。でもあまりにも怪しいので、トモミちゃん達は返事をしませんでした。
「あはは、まあこんな怪しいウサギとは話したくないよね」
と、ウサギさんは着ぐるみの下で笑いました。
「でもそっちの君は何だか心の底にモヤモヤを抱えてるみたいだね。モヤモヤしてる時は、口に出してみるのがいいよ。ここには誰もいないから、大きな独り言を言ってみたらどうかな。僕はここで掃除をしてるから」
言って、ウサギさんは再び掃除を始めました。掃除しながら、ウサギさんは大きく独り言を言います。
「起こったことを最初から言ってみたら、考えが整理出来るかも知れないね。いつ、誰が、どこで、何を、どうしたか。そこをはっきりさせたらいいかもね」
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