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「お、……俺?」
「男の子のハルトくんのママなら、ホノカちゃんのママとはあまり付き合いがないんじゃないかな? それに、ハルトくんは猫ちゃんを持って来るのに、ちゃんとハンカチに包んでいたからね」
ハルトくんは照れたのか、ちょっと赤くなっています。
「そのハンカチの刺繍は自分で縫ったのかな? それに、僕を見る目が好きなものを見る目だった。ハルトくんはきっと、こういうものが好きなんだね」
「……そうだよ」
ハルトくんはぼそりと言いました。
「俺、本当はこういうほわほわしたかわいいものが好きなんだ。自分でも作ってみたくて、姉ちゃんに刺繍を習って、やってみたんだ。そのぬいぐるみも、いいなあって思って見てたんだよ」
「……知らなかった」
「みんなには黙ってたから。男がこんなの好きだって言ったら、バカにされそうな気がしてさ」
「だったら、わたしだって!」
ホノカちゃんが声を上げました。
「わたし、マスクライザーが大好きなの。でも、みんな『あれは男の子の見るものだ』って言うのよ。だから、今まで他の子には言えなかったの」
「マスクライザー?」
そう言えば、あのくじの男の子用の1等は、マスクライザーの人形でした。ホノカちゃんが目をキラキラさせて見ていたのは、猫ちゃんではなくマスクライザーだったのです。
ウサギさんは、みんなにひょいと手を広げて見せました。
「僕はこの通り、ピンクのウサギの着ぐるみを着てるね。僕はこの格好を、好きだからしているんだ。僕は大人で、男で、そんな僕がピンク色だったりウサギだったりするのって、君達から見ると変に思うかも知れないね。でも、僕はこの格好が好きなんだ。誰に笑われても、怪しまれても、僕はこれで町をお掃除するよ」
ウサギさんの言葉は、とても誇らしげに聞こえました。トモミちゃんは、思わず言いました。
「わたし、笑わないよ。ウサギさんがピンクでウサギでも、ホノカちゃんがマスクライザーが好きでも、ハルトくんがかわいいものが好きでも! 笑ったり、バカにしたりする子がいても、わたしは絶対に笑わない!」
ホノカちゃんとハルトくんは、トモミちゃんを見ました。トモミちゃんは、二人に向かってニッと笑いました。
「だってわたし、ホノカちゃんもハルトくんも好きだもん。二人が好きって言うものを、笑ったりしないよ」
「トモミちゃん、ありがとう!」
「……ありがと」
ホノカちゃんはトモミちゃんに抱きつき、ハルトくんはぼそりとお礼を言います。
「みんな、心のお掃除は出来たみたいだね」
ウサギさんはゴミをまとめて、ゴミ箱に捨てました。そう言われて、三人ともなんだかスッキリした気持ちになっていることに気づきました。心のモヤモヤが、きれいにお掃除されたようです。
「じゃ、僕はこれで。またどこかで会えればいいね」
ウサギさんはホウキをかついで、公園を出て行きました。そろそろ夕日が傾きかけていました。
そしてそのまま、トモミちゃん達は公園や街角でウサギさんを見ることはありませんでした。
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