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「い、痛ったー!」
現実に戻った僕の目に入るのは、ニコニコ笑いながらこぶしを握る掃除の班の班長……。
そうか、犯人は班長か!
「井上さぁ。掃除の時間なの分かってる? 同性愛を否定するわけじゃないけど、窓の外のB見ながらニヤニヤしてる暇があったら掃除してくれないかな?」
「……へっ?」
そーっと窓の外を振り向くと、どうやらAちゃんはもう昇降口の中に戻ったらしく見当たらない。というか、Aちゃんが外で掃除してること自体想像だったから、最初からいなかったとも考えられる。
代わりに不思議そうな顔でこっちを見るBくんが……。
「真面目にやれよ。掃除の時間ニ十分もあったのにその間何してたのお前? 井上がしてたことって、窓を見てニヤけて顔の右半分だけ引きつらせた変顔して、誰もいない外に向かって手を振って、Bが出てきた後「仕方ないなぁ」ってまたニヤニヤしながら手を振っただけじゃん。」
プルプル震える僕に、追い打ちをかける班長。
その後ろでは、
「そっか……井上、そうだったんだな。」
「まさかうちのクラスからBLカップルが生まれるなんて……。」
「いやいや、Bくんはノーマルかもしれないし、仮にBLだったとしても勇樹君を選ぶわけないでしょ。カップルは生まれないよ。」
「Aちゃんのことを好きと見せかけて、実はB狙いだったのかあいつ……!」
「奇行だけじゃなく変顔にまで手を出し始めるなんて、よっぽど現実が切羽詰まってたのね。可哀そうに。」
ヒソヒソと話をしている班員たち……プラス掃除を終えて戻ってきたらしい何人かのクラスメート。
ああああやめてやめて!!違うんだよ!話聞いて!?
そこへ、
「どうかしたの、みんな?」
「また井上が何かやったの?」
AちゃんとBくんも帰ってきてしまった。 さ い あ く だぁ……。
僕は『この世の終わり』という言葉を実感する。
ところが二人を見た班長は、
「いやいや何でもないよ!」
と笑って誤魔化してくれた。な、な、な……
天使だ!救いの神だ!救世主だ!
感動に震える僕に、班長はにっこり笑う。
「というわけで、先生とAとBにチクられたくなければ、明日の掃除は自分の掃除だけじゃなく俺含めた班員全員のヘルプ……いや、ヘルプどころじゃなく全部引き受けてほしいな。井上。」
……天使?救いの神?救世主?
人生の先輩として断言しよう。そんなものはないんだよ……。
(翌日の掃除中にて)
完
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