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3 真夜中の訪問者
その少し前。
心配顔のスゥが留守番をしていた。
チョットマはスゥと話しながら、ンドペキの帰りを待ったが、夜が更けていくだけ。
すでに零時を回っている。
「探しに行こうかな」
「だめよ」
と言われても、いったんそう口にした限り、簡単に引き下がれない。
「ねえ、スゥ。私もアヤちゃんと同じように……」
不思議な声を聴くことができる。だから、きっとアヤやンドペキと出会えるはず……。
「だめ」と、スゥに念を押された。
「チョットマまで危険に晒すわけにはいかないわ」
「危険?」
チョットマは、その危険とはどんなものか、見当もつかなかった。
確かにプリブは、目の前で連行された。
「でも、プリブのこともあるじゃない。何かが起きてるのよ。だから、ここで待っていても」
「自分勝手に動かないで」
スゥは穏やかに話しているが、うむを言わせない厳しさがあった。
「あなたが夜の街をうろついても、プリブを取り返せるはずがないでしょ」
「うん」
自分でもそう思う。
でも、なにか手がかりが、などと思ってしまう。
「ンドペキやアヤちゃんが、今頃なにか見つけて」
「力づくでも行かせないよ」
スゥの目くばせで、スミソがゆっくり移動し、そのパリサイドの巨体で扉を覆い隠した。
「ふう」
チョットマはため息をついたが、自分に何かできると思っていたわけではない。
「待つしかないか」
「そうよ」
「ねえ、スゥ」
ふたりはいろいろな話をした。
ニューキーツの思い出。
今の状況。
イコマのこと、ンドペキのこと。
レイチェルのこと、スジーウォンのこと。
セオジュンやアンジェリナ、ニニのこと。
そして、パキトポークのこと。
「誰か来たようです」
スミソがドアの前で武器を構え直した。
スコープにはひとりのパリサイドが映し出されていた。
パリサイドが再びブザーを鳴らした。
「フイグナーという者です」と名乗っている。
かなり小柄なパリサイドだ。
「こんな時間に失礼ですが、ンドペキ殿はご在宅でしょうか」
フイグナーと名乗ったパリサイドは、深々とお辞儀をして、再び案内を乞うた。
「何の用だ」
「ンドペキ殿とお話をしたくて参りました」
中に入れるわけにはいかない。
スミソはドアの前で武器を水平に構えている。
パリサイドの肉体を持っているが、そのパワーを引き出す術をまだ持っているわけではない。
彼らから見れば玩具としか言いようのない、地球人類の武器。
それに、スミソに合う装甲はない。
対抗できるとは思えないが、これでも無いよりはまし。
スゥが立ち上がった。
「スゥ、ちょっと!」
まさか、中に。
「実体はないから、手出しはできないかも」
「だめよ!」
スゥが短剣を手に取り、ドア横のスイッチを押そうとしている。
そんなことをすれば、たちまち、パリサイドの姿がドアに浮かび上がる。
地球ではすでに使われなくなった装置だが、パリサイドの世界ではまだ実用されている。
スミソは一歩下がったが、武器は構えたまま。
ただの立体映像だからといって、安心できるはずもない。
部屋の中が相手にも見えるわけだから。
「だめだって!」
チョットマはスゥの手を抑えたが、スゥは柔らかく微笑んだ。
「こんな夜中に訪ねてくるのは、パリサイドじゃないはず」
普通、パリサイドは夜中に歩き回ることはしない。
しかも、今日は双戯感謝祭。
彼らの慣習に反している。
「きっと、あれだと思う」
アギのパリサイドでは、というのだ。
「そんなこと、わからないじゃない!」
「もしパリサイドなら、プリブのこと、聞けるかもしれないでしょ」
「でも」
そうこうしているうちに、訪問者がまた言った。
「お詫びを申し上げたいことがありまして……、それにご相談したいことも……」
あ、と思った時には、スゥがスイッチを押していた。
「他の人に聞かれたくないでしょ」と。
浮かび上がったパリサイドは、やけにか細く、背丈も小さい。とても危害を加えに来た者だとは見えなかった。
声はしっかりしているが、どことなく子供のような声音をしている。
ありがとうございます、と今は見たこともない大げさで古風な仕草で、深々と頭を下げた。
「ンドペキ殿は……」
「今は、いない」
フイグナーは落胆したのか、がっくりと肩を落とした。
「お戻りは」
「わからない」
「そうですか……。では、出直してまいります」
出ていこうとする立体映像の背中に、スゥが話しかけた。
「どういうご用件? 謝りたいこととか、相談したいこととか」
フイグナーはちらりと迷った様子だったが、向き直り、実は、と話し始めた。
「ありがとうございます。では、まず自己紹介をさせてください」
考古生物学者だという。
「ンドペキ殿とは一度、お会いしたことがありまして。ここでご相談できる人は、ンドペキ殿しかないと」
「それで?」
「やっと、ここにおられることを知り、矢も楯もたまらず、こんな深夜に失礼は重々ではありますが、お伺いいたした次第です」
フイグナーはようやく少しリラックスしたのか、わずかな笑みを見せた。
「ンドペキ殿には大変失礼なことをしたと、悔やんでおります」
それは海、
とまで言ったとき、男の姿はふいに消えた。
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