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「次から次へと...」
扉を足でこじ開けて入ってきた結城に、久我は苛立ったように呟く。
「...邪魔すんじゃねぇよ」
「邪魔も何も、ここ俺の場所なんだけど」
大河は二人のピリついた空気に意識を向けつつも、すぐに床に倒れ込んでいる天馬に声を掛けた。
「天馬っ...大丈夫か、」
「...う...っ、」
天馬は先ほどよりかは意識がはっきりしているようだったが相変わらず体は思うように動かせずにいて、大河はその体を支えて起き上がらせる。
そのまま壁に凭れかからせ、優れない顔色に不安が押し寄せた。
「とら、ちゃん...手..怪我、っ...」
「俺は大丈夫だから、」
先ほど久我にいたぶられた右手は紫色になって腫れてしまっており、血も溢れている。
じんじんとした痛みは未だに襲ってくるものの、大河はそれどころではなかった。
「...天馬、大丈夫。俺がついてるから、」
「...っ、」
天馬は悲痛そうに顔を歪めて、なんとか体を動かそうと必死に頭を働かせた。
「なぁ、この前俺お前の犬可愛がってやったんだけど、よろしく伝わってる?」
結城はそれだけ言って口に弧を描く。
以前この場所に大河がいた時は腹や背中を殴ったが、久我は気づいているだろうか。
「は、何それ。お前大河に手ぇ出したの?」
「やっぱ伝わってねーか。...中島ちゃんと伝えとけよ」
「...、」
最悪のタイミングで久我に伝えるなと思わず結城の顔を睨めば、気にする様子もなく結城は笑った。
「俺、前言わなかったっけ?こいつに手出したら殺すって」
「...ああ、言ってたな。でもお前らまじで面白いし俺気になっちゃって。まあ俺お前に殺されるほど弱くねーから」
結城の挑発に久我は怒りに肩を震わせ、大河の血がついた手で結城の胸ぐらに掴みかかる。
「おい勘弁してくれ。汚れんだろうが」
結城はその行動が気に食わなかったらしく、すぐに自身の胸元にある久我の腕を振り払い、そのまま拳を振るった。
「っ...、」
「...避けんじゃねぇよ。てかお前そんな見た目だけどなかなか強そうじゃん。少なくとと中島よりはな」
久我に拳を避けられた結城は面白そうに顔を歪め、床でこの異様な光景を固唾を飲んで見守っている大河に目を向けた。
「中島ぁ...俺とも遊んでよ」
結城は大河の近くに腰を落ち着けると、血だらけになった腕を掴んで引き寄せる。
痛みと混乱で震える体はいとも簡単にバランスを崩し、大河は結城の腕の中へと倒れ込んだ。
「とら、ちゃん...、」
「とらちゃん?...あー、大河だからタイガーってか?可愛いじゃん」
天馬の言葉に結城は興味深そうに反応して、次の瞬間には抱えていた大河を思い切り床に叩きつける。
「...がはっ、」
「俺そういう目すげぇ大好き。強がっちゃってさあ...堪んねえな」
「う、ぐ...っ、」
久我は自分以外が大河を組み敷いている状況に目を見開き、背後から結城に掴みかかろうとするが、それも立ち上がった結城によって振り払われた。
「とらちゃん、とらちゃん..ね。俺も中島のことそう呼ぼうかな」
結城は嬉しそうにそう呟くと、躊躇いもなく大河の腹に踵を振り落とした。
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