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天馬は感覚が戻ってきた体をなんとか起こし、壁に背中を預ける。
大河はぼんやりと暗くなった外を眺めていて、その頬に涙の伝った跡が見えて思わず唇を噛んだ。
「とらちゃん...」
「...」
名前を呼べば大河はこちらに顔を向ける。
しかしその目は虚ろで、大河にこんな思いをさせた久我に沸々と怒りが湧いてくる。
「こっちおいで、」
「...」
まだ痺れる手を小さくあげて手招きすれば、大河は無言で天馬の隣に腰を下ろした。
そしてそのままぴたりと体をくっつけてくる。
「....大丈夫?」
「...」
「...大丈夫なわけないよね、ごめん」
未だに何も話さない大河の肩は僅かに震えており、その体を抱きしめてやることすらできない自分自身をひどく情けなく思った。
「...とらちゃん、俺..何もできなかった。それどころか俺のせいで、」
天馬が言葉を続けようとしたところで大河はおもむろに顔を上げ天馬を見つめるので、その先を紡ぐことはできずに終わる。
灯りのないこの部屋では月明かりを頼りに大河の表情を窺うことしかできなくて、天馬は痺れる手を必死に持ち上げて、その頬に手を添えた。
大河は少し驚いた顔をしてから、その手に擦り寄りきつい目元を僅かに細める。
頬に添えられた手に大河は自身の左手を重ねて、そっと握った。
そして意を決したようにその目を見据え、重い口を開く。
「天馬、俺とはもう一緒にいない方がいい」
「は、..」
ようやく聞こえた想い人の声は暗く澱んでいて、こんな言葉を聞くために俺はここにいるわけじゃないと、天馬はひどく傷ついた。
「天馬に無理をさせてまで俺と一緒にいてほしいとは思わない。
...俺はこれ以上大切な人を傷つけたくない。大切な人を守る方法は、俺が関わらないこと、それだけだ。」
諦めたようにそう呟く大河に、天馬は何も言葉をかけてやることができなかった。
自身が弱いせいでこんな顔をさせてしまっている。重く事実はのし掛かり、容赦なく天馬の心を抉った。
「...守るって、言ったのに..」
「...、?」
「何もできなかった。ほんと情けない。
...とらちゃんがそう思っちゃうのは俺のせいだ、俺の力不足」
「違...」
天馬の突然の言葉に大河は戸惑いつつも否定しようと口を開くが、天馬は強い眼差しを向けて大河を見据えた。
「だから、今度はそんなこと思わせねぇように守るから。俺はとらちゃんから離れない。誰に何を言われようと、絶対に」
暗闇の中、大河の頬にはまた涙が伝った。
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