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「とらちゃん、今日はうち来なよ。...つってもまだ帰れなさそうだけど」
天馬が力なく笑えば、大河はそっと天馬の右手に手を重ねた。
「...うん。待ってる」
「良かった...」
天馬は大河の言葉にひどく安心し、そのまま指を絡ませる。
「...怖かった、」
「え、?」
「あんなところ見られて、天馬に嫌われるんじゃないかって...そう考えたら、すげー怖かったんだ..」
そう言う大河の顔は先程の光景を思い出しているようで、辛そうに歪められている。
「天馬に嫌われることは、俺と関わらせずに済むってことで...本当はそれが一番いいことなのもわかってる。けど俺、..それを嫌だと思った。すげー自分勝手だよな」
「...そんなことないよ。俺はとらちゃんを嫌いになるなんて絶対しないし、離れる気もない。今まで一人だった分、俺がずっと一緒にいるよ」
天馬は目を伏せる大河の横顔を見据えて、少しでも自身の想いが伝わればいいなと言葉を続ける。
「というか俺は、とらちゃんから離れられない。それくらい好きなんだよ」
「...」
「だから余計なことは考えず、俺のそばにいて」
徐々に動くようになってきた体に精一杯の力を入れて、そっと大河を抱きしめる。
大河の体はいつもと同じように温かくて、こんなにも大河を近くで感じられることに天馬は心の底から安堵した。
「...さっきのことは忘れよう。俺が上書いてあげるから、...とらちゃんには笑っててほしい。そのためなら俺何でもする」
「天馬...」
「ごめん、こんな真面目な話。俺らしくないわ」
急にしんみりしてしまったこの空間に慌てて体を離そうとすれば、大河のほうから拒まれる。
「天馬、..もうちょっとだけ、こうしてたい」
「...、うん」
今日も本当に色々あった。
久我さえいなきゃ穏やかなこの生活も、奴のせいで全てが台無しになる。
大河のこの苦痛に歪む顔ももう見たくない。
天馬は改めて大河の側にいることを決め、そのためにももっと自身が強くならなければいけないと心の中で考えた。
「...天馬、ありがとな」
「どういたしまして」
月明かりに照らされるこの空間に、ふたつの影が小さく揺れた。
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