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あれから2時間ほど経ち、天馬はやっとの思いで自身の足で立ち上がることができ、軽く感動を覚える。
「...おお、」
「うわ、生まれたての子鹿みたいだな」
「ちょ、とらちゃん」
「ああ違う仔馬か。ごめん」
「そこじゃねぇよ」
二人で過ごしていればすぐに心は平穏を取り戻し、こんな軽いやり取りも笑ってできる。
それでも先程久我にされた事実が消えるわけではない。きっととらちゃんも明るく振る舞おうとしてくれてる。
気遣わせちゃってんのかなと天馬は考えるが、暗い気持ちになるよりかは良いのではないかとひとまずは考えないようにした。
「待たせちゃってごめんね。帰ろっか」
「うん」
まだ若干のふらつきが残る足元に不安を覚えつつ、時折大河に支えられながら別棟の階段を降りていく。
「とらちゃんのが重症なんだからあんま無理すんなよ」
「大丈夫、すげー痛いのは右手だけだから」
大河は自分のことには構わず天馬が転ばないようにと殊勝に気遣った。
「とらちゃんがすげー痛いって言うと、よっぽどなんだろうな」
「感覚だけど、たぶん骨いってる」
「は、?」
「たぶんな、たぶん。」
大河は軽く受け答えするが、たしかに扉で何度も手を挟み込まれているわけだし、久我は手加減という言葉を知らない。
その光景を思い出して、天馬は自分がやられたわけでもないのに右手が疼いた気がした。
「とらちゃんって骨折とか今までしたことある?」
昇降口はもう閉まっていたので中庭まで靴を持って戻り、外に出る。
校庭の隅を歩いているところでふと気になったことを聞いてみた。
「天馬は?」
「俺昔サッカーやってたんだけど、そんときに相手チームに足行かれてヒビは入ったことある。まあ向こうも痛み分けでお互い様だったけど」
「あーそれは...痛そう」
大河はそれだけ言うと黙り込むので、いや俺の話は良いんだよと天馬は口を開く。
「で、さっき骨いってるかもって言ってたし、やっぱ昔に骨折してると感覚わかるもんなの?」
「...過去に骨折してなくてもなんとなくわかると思うよ。まあ俺のは場合は中学の時に久我にちょっとな...」
大河はそれだけ言って右腕をそっとさする。
天馬はその言葉に、久我にされたやつかよと戦慄した。
嫌なこと思い出させてしまった、興味本位で聞くんじゃなかった...と後悔しつつ、咄嗟にごめんと謝れば、昔のことだからと小さく笑われた。
二人で話しながら歩いているとあっという間に家の近くまでやってくるので、コンビニで飯を買って帰ろうと天馬は提案した。
「..あー俺いいや。天馬の分だけ買って」
「え、何で?お腹すいてない?」
「...ん、まあ色々あるんだよ」
大河はそう言ってコンビニの外で待っとくわと横に逸れるので、その様子を気にかけつつも2人分の夕飯を買ってコンビニを出た。
「お待たせ」
「ああうん」
家に帰れば今日1日の疲れがどっと押し寄せて、コンビニの袋を机に放りすぐにベッドに腰を落ち着ける。
天馬はぽんぽんと隣を叩いて大河を呼べば、少し戸惑いつつも大河は大人しくその隣に座った。
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