馬と虎の叛逆

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「先風呂入る?」 「ああうん、そうさせてもらう。色々洗い流したい」 大河はそう言って無意識に口元を拭う。 その仕草に天馬は思わず眉間に皺が寄って、大河が今日のことをあまり思い出さずに済むようにずっと傍にいてやろうと心の中で考えた。 「はいこれ着替え。タオルの場所わかるよね?脱衣所のこの前と一緒んとこあるから」 「うん、大丈夫。ありがと。...んじゃいってくる」 大河はそう言って部屋を出ていくので、一人になった空間で天馬はぼんやりと天井を見上げた。 久我はいつだって頭がおかしいとしか思えない行動ばかりだったが、今日に関しては今までのものとは少し毛色が違う気がした。 大河に何度も好きと伝えていた目は本気だったし、思い出したくもないがあの行為も嫌いな相手へのただの嫌がらせだとは思えない。 久我は、とらちゃんのことを─── そこまで考えて、天馬は大きく溜息をつく。 大河の話だと昔は久我とも仲が良かったらしい。 久我はどこかで大河への気持ちが抑えられなくなり、それは歪んだ感情としてあの狂気に満ちた行動にあらわれているのか。 しかしその気持ちを推し量ろうとしても到底理解できるものではなく、ただただ久我を憎いとしか思えなかった。 「...何でとらちゃんなんだよ」 よりによって天馬が想いを寄せる大河にその感情が向けられていることに苛立ち、天馬はまた大きな溜息をついて後ろへと倒れ込んだ。 *-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*- 大河は浴室に入ればすぐに口を濯ぎ、何度も何度も入念に湯を含んだ。 しかしそれでも喉を伝うあの感覚と独特の匂いが頭から離れず、早々に諦める。 「いっ...てぇ、」 それから体を洗おうとして、うまく使えない右手に苦戦した。 久我によって付けられた傷は後を立たず、治っているものはあってもそれは傷跡として大河の体に刻み込まれている。 左腕の刺し傷もまだ完治には程遠く、未だに些細なことで傷が開いてしまう。 しかも痛みを感じるたびに久我の嫌な笑みと共に情景がフラッシュバックして、大河は辟易とした。 「...稜、大丈夫かな」 今の状況で久我が安易に稜に手を出すとは考えづらいが、絶対とは言い切れない。 久我に抗いつつも今後どうやって弟を守っていけばいいのかと、大河は回らない頭で必死に考えた。
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