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「風呂ありがと」
「あ、おかえり。じゃあ俺も風呂入ってくるわ、適当に休んどいてね」
「うん」
それだけ言って部屋を出ていく天馬を見送り、大河はベッドの上に腰を落ち着けた。
一人になるとどうしても嫌なことばかり考えてしまって、今の今まで割と楽観的に捉えられていたのは天馬のおかげかと、何も言わずに傍にいてくれる天馬に改めて感謝した。
風呂で血を洗い流した右手をよくよく見れば、挟まれた箇所は青紫色に変色し、指も腫れ上がってしまっている。
もともと弱り切っていた右手に以前とどめを刺されたと思っていたが、これが本当のとどめだったかと右手をぼんやりと見つめた。
「はあ...」
こんな満身創痍の状態になってもまだ精神が耐えられているのは、確実に天馬がいてくれているお陰だろう。
自分の思っている以上に天馬の存在が大きくなっていることに若干戸惑いつつも、その顔を思い浮かべて大河は胸の奥が熱くなるのをひっそりと感じた。
しばらくベッドの上で蹲っていると部屋の扉が開き、頭にタオルを掛けた状態の天馬が入ってくる。
「あ、起きてた。良かった。今日色々あって疲れただろうし寝ちゃってたらどうしようかと」
「...天馬がいない間に寝たりしねぇよ」
「はは、そっか。そしたら飯食おう」
天馬はそう言って机の上に置いてあったコンビニの袋を手に取った。
中から弁当を二つ取り出すので、よく食うなとぼんやり眺めていればいきなり名前を呼ばれる。
「とらちゃん、ほら。おいで」
「え、何」
「何じゃないでしょ、ご飯だって」
「いやでも俺..」
いいからおいでと天馬に手招きされ机の方に向かえば、目の前に弁当が差し出される。
どう言うことだと思わず天馬を見つめれば、困ったように笑われた。
「これとらちゃんの分。腹減ってんでしょ?食べてよ」
「...でも俺、金持ってなくて..」
大河は久我に財布を管理されており、金は持たされていない。バイトをしようにも久我がそんなことを許すはずもなく、自販機で飲み物ひとつ買うこともできないほどだった。
「いいよ金は。どうせ久我がそのへん絡んでんでしょ、いいから食べな」
「...ありがとう」
「あ、てかあっためねぇとな。ごめんちょっと待ってて」
弁当を抱えて天馬は部屋を出ていき、その姿を申し訳ない気持ちで見送る。
本当にどうにかしなきゃいけない。こんな生活では自分だけでなく周りにも迷惑をかける。
大河は改めてこの生活に終止符を打つために動くことを決意した。
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