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「とらちゃん本当に病院行かなくていいの?」
「...うん大丈夫。保険証も久我が持ってるから。金もねぇし」
大河を心配する天馬をよそに、大河は怪我を痛がる素振りも見せずにそう答える。
俺の前では無理しなくていいのに、と天馬は考えてから、ずっとこんな生活をしていて気丈に振る舞うことが染み付いてしまっているのかと複雑な気持ちになった。
そんな会話をしつつ二人で歩いていれば、あっという間に見慣れた校門が見えてくる。
同じ制服を着た生徒は自分たちの姿を見て、本当に仲良いんだとか、中島は今手がつけられないほど荒れているだとか勝手なことを口々に話しており、本当に噂話はあっという間に広がるなと苦々しく思った。
「とらちゃん、今日は俺と一緒にいてね。いい?」
「...うん、」
大河の小さな頷きに天馬が満足げに笑いかければ、大河は目を細めて安心したように笑い返した。
「...俺、とらちゃんの笑顔ほんと好きだわ」
「は、なにいきなり」
思わず口から出た言葉に自分でも戸惑いつつ、何でもないよと咄嗟に誤魔化したが、大河は訝しげな視線を向けてすぐに目を伏せた。
「天馬ってたまに変なこと言うから、すげーびっくりする」
「...あはは、そうかな?そんなことないと思うけど」
「そんなことしかねぇよ」
やはり大河と話していると心が落ち着いて、自然と笑顔になる。
そして、だからこそずっと一緒にいたいと思うんだろうなと天馬は一人納得した。
「久我に陰でなんかされそうになったら走って逃げる。とらちゃんわかった?」
「...わかった」
「よろしい。じゃあ今日も気張ってこー」
「相変わらず緩いな」
教室に入る前、気合を入れるために大河の背中を叩こうとして、俺がトドメ刺してどうすんだとすぐに手を引っ込める。
大河にはそれがわかったらしく、また小さく笑われた。
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