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8時20分頃、いつも通りの時間に久我は教室に姿を現した。
教室に入れば何人ものクラスメイトから話しかけられるので笑顔で挨拶を交わしつつ、自席に着いて大河を冷たい眼差しで見つめる。
しかしその視線に気づいているはずなのにこちらを全く見ようとしない大河に苛立ちが募った。
大河は昨日も帰ってくることはなく、無断で外泊をした。
行き先は例に漏れず天馬のところだろう。
自分という存在がありながらよその奴に尻尾を振る大河にも、勝手にちょっかいを出して絆してくる天馬にも無性に腹が立つ。
あのあと無理にでも連れて帰るべきだったなと後悔して、久我は無意識に唇を噛み締めた。
「久我おっはよー」
「...ああ、おはよう」
友人が久我の肩を叩いて挨拶してくることにも内心悪態をつきつつ、すぐにいつもの柔和な笑顔を浮かべる。
クラスメイトは久我が心の中でどす黒い感情を抱いていることなど気づきはせず、いつもの調子で前の席に腰を落ち着けた。
「あれから中島からは殴られたりしてない?」
「...ああ、それなんだけどね...。実は昨日もちょっと殴られちゃって...見えないところなんだけど」
そう言って殴られてもいない腹をさするような仕草をすれば、友人の顔はみるみるうちに心配をするものへと変わる。
「...まじかよ。中島のやつほんと最低だな。あんだけ久我に助けてもらってたのに少しでも気に食わないことあるとこれかよ...!」
「まあ、大河もきっと色々あるんだよ...」
「いやそれにしてもさ...つーか久我は優しすぎるんだって。あんな奴もう縁切っちゃえよ、関わるだけこっちが損するだろ」
久我は自分で大河の印象が悪くなるように言っておきながら、いざ友人に大河のことを語られると、お前に大河の何がわかるんだと理不尽なことを思う。
「...まあ、またあいつに何かされそうになったらすぐに言えよ。俺もみんなも久我のこと助けるし」
「うん、ありがとう。俺は本当にいい友人に恵まれて幸せ者だよ。」
そう言って笑いかければ、その様子を見ていた近くの席の女子がかっこいい!とキャッキャとはしゃいでいるのが視界に入る。
───この教室の奴ら馬鹿ばっか。微塵も俺を怪しむ奴なんていない。
久我は内心ほくそ笑みつつ、どこか満たされない心に尚更苛立ちを覚えた。
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