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気付けばもうすぐ放課後で、天馬といるとあっという間に1日が終わるなと大河は内心驚く。
結局今日久我は冷たい視線を時折向けてくるものの、話しかけてくるようなことはなかった。
大河から暴力を受けていると吹聴している手前、人前では話し掛けづらいのだろう。
久我はおそらくそこも想定した上でこの事態を引き起こしているはずだが、それでも久我との接触を最小に抑えられるのならそれに越したことはない。
「だからみんな、ハメは外しすぎないように。怒られるの先生なんだからね」
「先生が怒られるなら別にハメ外してもいいじゃん〜」
「佐伯うっさいよ。もうHR終わるから静かにして」
担任とクラスメイトが来週から始まる夏休みについて軽口を言い合っているのに対し、久我は手で口元を覆いながら一人ほくそ笑んだ。
───大河、もうすぐ沢山可愛がってやるからな。
大河は何かおぞましい雰囲気を感じ取り、ぞくりと肩を震わせる。
この悪寒は久我のせいだろうかと考えつつも、なるべく視線を合わることは避けたいと敢えて気付かぬフリをしておいた。
HRも終わりクラス中が慌ただしく帰り支度を始める中、天馬と大河も久我に声を掛けられる前に帰ろうと早々に席を立って教室を出る。
その二人の後ろ姿を久我は冷めた目で睨みつけていた。
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「とらちゃん今日ほんとに家帰んの?」
「うん。稜とも話しておきたいし」
「そっかぁ...でもやっぱ心配だわ。スマホも金も久我が持ってるしいざという時どーにもなんねぇじゃん」
学校からの帰り道、久我のいる家に帰るという大河を天馬は心配した。
以前より抗う意思を持っているとは思うが、本当に立ち行かなくなることもあるだろう。
久我のことだ。
えげつない事も平気でするし、この前のとらちゃんに対する凌辱もあり気が気ではない。
それらを考えれば考えるほどあの家に大河を一人で帰すのは気が引けて、もう一度名前を呼ぶ。
「...とらちゃん、」
「大丈夫だって。もしなんかあったらすぐ家から走って逃げるから。どうせ元々財布も携帯もねぇんだし身軽なもんだろ」
「...その時は公衆電話からでもいいからすぐ俺に連絡してね、いつでも待ってるから」
大河の言葉に若干の不安を覚えつつ、しかし弟と久我の件で話すこともいつかはしなくてはならない。
天馬は心配が拭えぬまま、どうかとらちゃんに何事もありませんようにと、裏切られ続けた願いを今日も心の中で願った。
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