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駅前で天馬と別れ、2分後にやってくる快速の電車をホームで一人待つ。
家に帰ったら久我が帰宅する前に稜にすぐ話をする..そして家族に何を言われようとリビングで過ごし、久我と二人きりにならないように───
そこまで考えたところで、突然肩を叩かれる。
大河は今一番会いたくない久我の顔を想像して、一気に青褪めた。
「...たーいが」
耳元で名前を囁かれて、背筋が凍る。
慌てて振り返ればそこにはニコニコと笑う久我が立っていて、その目は嬉しそうに細められていた。
「...もう、学校で全然目合わせてくれないから俺寂しかったんだよ?さっきも俺置いて先帰っちゃうしさ」
「...っ、.....」
何か言わなければと口を開こうとするが、焦りと緊張でうまく言葉を紡ぐことができない。
久我はそんな大河を見て優しい手つきでゆっくりと髪を撫でた。
「今日は俺のところに帰ってきてくれるんだね、良かった。...大河、一緒に帰ろう」
久我は相変わらず優しい口調でそう続けて、その裏の感情が読めない大河は内心穏やかではなかった。
しかし久我はそんなことを気にする様子もなく、他に人もいるというのに手を繋ぎ指を絡めてくる。
「久我..、っ」
「何?あ、恥ずかしかった?...でもごめんね、俺我慢できないから許して」
普段大河には向けない優等生の笑みを浮かべ、困ったように久我は笑う。
いつもなら迷わず右手を掴み抉ってくるのに、傷を労るかのように左手に手を重ねられ、久我が何を考えているのか分からず大河は途方に暮れた。
「早く家で可愛がってあげたいなあ...」
何気ない久我の呟きでさえ大河を不安にする材料でしかなくて、一体何をされるのかと帰宅する前から頭の中は得体の知れない恐怖で埋め尽くされた。
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