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結局昨日は不安でなかなか寝付くことができず、早朝から大河はまだ眠っている天馬の横顔をぼんやりと眺めた。
手は相変わらず繋がれたままで、この前火傷した箇所に巻かれている包帯を痛々しく思う。
「俺のせいで、みんなを巻き込むようなことにならないよな...」
大河は自身の1番の不安をぽつりと口にして、答えなどわからないまま静寂へと消えた。
昨日あんなことになってしまって、ここからどう動くのが正解なのかが全くもって見えていない。
自身の考えの甘さを痛感しつつ、久我に今さら何を言っても取り繕うことはできないなと諦める。
ひとまずは久我の出方を見て、そこからどう対処すべきかを考えようと、大河はこの先のことに思いを巡らせた。
「ん、...あれ、とらちゃん?もう起きてんの」
「おはよ。うん、なんかあんま寝れなくて」
「...じゃあこっちおいで。あと1時間は寝れるっしょ」
天馬はそういうと繋いでいた手を離し、おもむろに腕を広げて見せる。
眠そうな顔で笑う天馬に、言われたとおりすぐにそこに収まって、大河は静かに天馬の鼓動を感じた。
「起きたばっかなのに心臓ばくばくしてんじゃん」
「...そりゃね。俺もまだウブだからさ」
「どこがだよ」
大河の何気ない言葉に天馬はふざけたように返し、そのまま天馬の胸に顔を埋め目を瞑る。
「...このまま起きたくない」
「それもありかもね。でも俺がいるから、頑張って学校行こう」
優しい手つきで髪を撫でる天馬に感謝しつつ、大河は短い時間ではあったが眠りについた。
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重い足取りで教室へと向かえば、昨日まで普通に話しかけてきていた隣の席の藤野は躊躇いがちに声を掛けてくる。
「中島くん、おはよう..」
「うん、おはよ」
「あの...大丈夫?」
藤野は心配そうな顔でそう続けてくるので、大河は小さく笑みを浮かべて頷いた。
「ごめんな心配掛けて。俺は大丈夫だから心配しないで」
「そっか。...あいつら久我君に何もしなきゃいいけど、」
あいつら、とは久我と連んでいた友人たちのことだろう。
昨日教室を飛び出して行った佐伯も既に自席についているのが見え、大河はその動向を静かに見守った。
いつもなら登校する時間になっても久我が教室に姿を見せる事はなく、机の横にかかった鞄もそのままにされている。
今まで久我が無断で欠席をするなんてことはなかったため、事情を知らない担任は不思議そうな顔をして教室を出て行った。
久我は今、何を考えているのだろうか。
大河の中にはそんな思いが過ぎり、この教室に来るとしても、来ないにしても、大河自身を悩ませることになる。
「...はあ、」
「中島..、俺のせいで本当にごめん、」
「..いや中村のせいじゃない。それは違うから、」
思わず出た溜息に中村は申し訳なさそうな顔でそう続けるので、大河は慌ててそれを否定した。
自分がこんなに弱気でどうする、
このままではダメだ。
そのせいでこうして中村にまで要らぬ心配を掛けてしまっている。
「中島、俺になんかできることある?」
「...ありがとな。でも前に証拠押さえるのも手伝ってもらったし、それに俺とこうして普通に話してくれるだけで十分だから」
「そんなの当たり前だろ。友達なんだし」
「友達、か...」
中村からの思わぬ言葉に、大河はどこか不思議な感覚を覚えた。
一度は諦めたこの学校生活も、天馬や周りの人たちのおかげでこうも変えていくことができている。
「なにそんなしみじみと...。俺らもう友達だろ?困ったことがあったら少しでも力になりたい。だから中島も遠慮しないでね」
「...うん、本当にありがとな、」
大河はいまいちどこの大切な存在を守っていくために自分に何ができるかを考え、気を引き締めた。
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