終焉の兆し

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あれから2週間が経ち、あっという間に11月を迎えた。 久我はあの一件から学校に姿を見せることはなく、このままずっと来ないつもりなのか、それとも何かを画策しているのか、今でも大河の不安は尽きることはなかった。 「はあ、朝冷えんね」 今日は平日のど真ん中だが、祝日のため学校は休みだ。 随分と前に起き出した大河は部屋の窓から外を眺めていたが、ぽつりと呟かれた天馬の声に視線を向けた。 「朝っつっても、もう10時半だぞ。言うほど寒いか?」 「えー寒いっしょ。とらちゃん暑さにも寒さにも強いんだね、最強じゃん」 布団を被ったままの天馬からそう言われて、あまり気にしたことはなかったが、自分はそういったことが人より強いのかと考える。 しかしそれも久我のせいだろう。 真冬に家に入れてもらえず放置されたこともあれば、床で寝かせられたことも数え切れないほどある。 忌々しい記憶が甦りつつも、今はそれを懐かしく思えることに大河は安堵した。 「天馬まだ起きねぇの」 「んーもうちょっと。体あったまるまで」 「...そのまま1日終わりそうだな」 相変わらずマイペースな天馬をちらりと見れば視線が合い、目を細めて笑われる。 その完璧な所作に大河はどきりとし、思わず視線を逸らした。 「え、なにとらちゃん。照れてんの?」 「...何でもねぇから...ほっとけ、」 「あーもう...可愛すぎかよ」 天馬も天馬でそんなことを呟いたかと思えば布団に顔を埋め、悶絶する。 お互い意識しすぎてしまっていることを自覚しつつ、この微妙な距離感を天馬はもどかしく思った。 「とらちゃん、こっちおいで」 「...いいけど、俺手足冷たいから、天馬また布団から出るの遅くなるぞ」 「はは、とらちゃん呼んだ時点で俺布団から出る気ねぇから心配しないで」 天馬の何気ない言葉にも節々に甘い空気を感じ、この雰囲気を前にしては手も足も出ないなと大河は自嘲しながら天馬の元へと向かう。 すぐに天馬は布団に大河を迎え入れ、その体を優しく包み込んだ。 そしてそのまま背中に回していた手を滑らせて、大河の服の中へと入れてくる。 「...何だよ、くすぐったい」 「怪我、まだ痛む?」 「もう腹とか背中は大丈夫」 「そっか、」 心配そうに掛けられた言葉に素直に答えれば、天馬は安心したように笑い、それと同時に直接背筋を撫で上げてくる。 「..んっ...だから、くすぐったいんだって、」 「はあ...もう俺色々限界かも」 天馬は余裕がなさそうにそう呟くと大河の首筋に顔を埋め、直接触れていた手は徐々に下へと下がっていった。 「天馬、どうした?大丈夫?」 「ああうん。...全然大丈夫じゃねえ。超やばい」 「何がやばいんだよ、俺にできることある?」 天馬の表情が窺えず、どういうことだと問いかけてみるが、それにも反応はない。 安心させるように背中をぽんぽんと叩いてやるが、下がっていった天馬の手は履いていたスウェットのゴム部分を掻い潜ってくるので、大河は驚いて目を見開いた。 「...何、どうしたんだよ」 「すげぇムラムラする。ああ、大丈夫。変なことはしないから、」 天馬の意外な言葉に面食らいつつ、そう言って引き抜かれる手に大河は胸を撫で下ろす。 「...俺最近全然してなくてさ。まあとらちゃんもわかってるとは思うけど」 「まあうん、...俺いるせいだよな」 「とらちゃん目の前にして、はち切れそうな欲望を理性で押さえ込んでるわけよ」 天馬の壮大な言い方に、そこまで我慢させていたのかと大河は申し訳なく思った。 自分自身はそれこそ3年以上してなかったこともあり、そういった類には疎いという自覚もある。 ただ、天馬にそこまで気を回してやれなかったことに後ろめたさを感じ、大河は静かに口を開いた。 「俺、向こう行っとくからしていいよ。今まで悪かったな」 「...え、とらちゃん」 「今で良ければ俺リビング行くし、終わったら呼びに来てくれれば、」 「いや、だめ。ここにいてよとらちゃん」 布団を抜けようと、回された天馬の腕を外していれば突然そんなことを言われ、意味が分からず大河は瞠目する。 「でも俺がいたらできねぇだろ、今までもそれで我慢させてたわけだし」 「まあそうなんだけど、今日のこれはお誘いだよ」 「は?ごめんどういうこと」 疑問符が頭の中を埋め尽くす中、今まで視線を伏せていた天馬は大河を見据えて、にこりと笑った。 「とらちゃん、一緒にしない?」
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