終焉の兆し

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しばらく二人で余韻に浸りつつ放心していれば、いつのまにか寝ていたようで、大河は体に感じる心地よい重みで目を覚ました。 窓からは冬晴れの空が窺い見れて、なんて穏やかな休日なんだろうと思いながら天馬の髪を撫でる。 「ん、....え、あ...俺寝てた?...てか、ごめん、重かったよね、痛かったっしょ、」 しばらくそうしていれば天馬が起き出し、慌てたように体を離そうとするので、大河はそれを引き留めた。 「大丈夫だから」 そのまま抱き締めてやれば天馬は嬉しそうに笑い、天馬の青みがかった髪が頬を掠める。 「...幸せすぎんなあ、」 「何しみじみしてんだよ」 「だってさ、そりゃしみじみもするっしょ」 天馬とひとしきり抱き合っていると、腹減ったなと呟きが聞こえ、流石にそろそろ起きるかと名残惜しくも布団を這い出た。 「今日何食べよっか。たしか冷蔵庫に焼きそば入ってた気がする」 「焼きそばいいじゃん。俺炒める係やる」 「じゃあお願いしよっかな。俺は肉切っちゃうわ」 二人でリビングへと移動し、だいぶすっきりとした顔つきになっている天馬に先程の光景を思い出して少し恥ずかしくなる。 20分もすればかなり野菜の少ない焼きそばが出来上がり、手を合わせて食べ始めた。 「とらちゃんだいぶ箸も使えるようになってきたね」 「うん、なんかこの手にも慣れてきた。色々あったけど、今はこうして天馬といられてるし、そういう意味では久我に感謝だな」 きっと久我がいなければ今通っている高校に行くこともなかった。 それに例え同じクラスになったとしても、こうもタイプの違う天馬と話す機会もなかったかもしれない。 そう考えると結果論としてこうやって天馬と出会えたことは、今までの人生の中でも数少ないラッキーな点だったとさえ思える。 「俺ほんと、天馬に会えて良かった」 「...なにいきなり。大袈裟だって」 「全然。天馬いなかったら俺の人生終わってたかもしんねぇし」 天馬の照れたような顔を眺めながらそう伝えれば、天馬は視線を逸らし俯きがちに言葉を紡いだ。 「俺もとらちゃんに会えて良かったよ。  それに、好きになって良かった。とらちゃんはもう俺の一番大事な人だわ」 「...照れるからそういうの面と向かって言うなよ」 「え、むりむり。とらちゃんに言わなきゃ誰に言うのよ」 あんなことをした後でも二人の間に流れる空気は特に変わらなくて、本当に居心地が良いなと大河は改めて思った。 「...久我、どう動くかな。できればもう顔も見たくないけど」 「あいつ忘れた頃にいつも仕掛けてくるから油断ならねぇよな。とりあえずこのまま何もないといいけど、もしまた学校に来ることがあったら、絶対二人きりにはならないようにね」 「...うん」 ずっとこのままでいい。 心の中ではそう思うものの、久我とまだ決着がついたわけではない。 あれから両親とも碌に話しておらず、最悪家に連れ戻されて幽閉されることだってあり得る。 まだまだ片付けなきゃいけない事はいっぱいあるなと憂鬱になりながらも、目の前の天馬を見て、事態をどこが楽観的に捉えられている自分がいるのも確かだった。
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