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教室を出て、階段を降りていく。
踊り場で曲がる度に、少し遅れてついてくるあいつが視界に入るけど特にふたりとも言葉を交わすことはない。
……まさかこのまま家まで一緒に帰る羽目になったり、しないよね?
そう訝しんだ瞬間、最後の踊り場を曲がった先にあった昇降口にひとつの影を見つけた。
ふ、と小さく息を吐いて後ろを振り返る。
「お迎え。来てますよ色男さん」
「あ? ………あ」
私の言葉に不機嫌そうに答えようとしたこいつは私が指し示す先の影に気付いたのだろう、慌てたように階段を駆け下りていった。
私の横を、すり抜けていく。
一瞬たりとも私を見ることなんてなく、まっすぐ。
……幼馴染なんて、言う程いいものじゃない。
私にできるのは、あいつを送り出すための言葉を渡すことくらいだ。
好きかもなんて思ったところで、相手の事を知りすぎているから『今更』という言葉が邪魔をして何もできない。
特別可愛くもない私は尚更のこと。
だから例えば、あいつが告白された現場を見てしまったからって、彼女が出来た瞬間を見てしまったからって、それを追及することもない。
そういうことされるのが一番嫌いだって、知ってるから。
ずっと昔から、知ってるから。
だから私は昨夜、泣いたことさえ嘘にした。
微かに見える、少し照れたような横顔。
そんな表情向けられたこと、ない。当たり前だけど。
まっすぐで綺麗に伸ばされた髪を揺らした女の子と何か言葉を交わしながら、伸びていくふたつの影をただ見送る。
初めての友達で、私にとっては「初めて好きになった人」だけど―――
「……うるさいな。寝ぐせ、直らないんだよ」
右側の髪を握りしめてこぼれた声と一緒に、目から何かが落ちていった。
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