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第59話 私、愛する人に嫁ぎます
人前式となるため神殿での誓いは必要ありませんが、アグニ様の提案でアイルランナーという絨毯を取り入れました。赤く柔らかな絨毯を芝の上に敷き、その上を美しい花嫁が父ベクトルに手を引かれて歩いていく。
一歩進んで足を揃え、また一歩進んで足を揃えます。ゆっくり近づく花嫁を一目見ようと多くの民と貴族が集まっていました。
「緊張するわ」
小声で呟き深呼吸します。右腕を父に絡め、ブーケを持つ左手が震えました。ゆっくり進む先に、軍服に似た白い衣装を纏った美丈夫が待つ。純白のドレスとヴェールが、そよ風に揺れました。アイルという赤い絨毯は、婚礼衣装の白を際立たせます。
「絶対に幸せにしてください、陛下」
人前にもかかわらず涙を流すお父様から、テユ様の手に右手が預けられました。そっと受け取ったテユ様の指が少し冷たい気がします。緊張しておられるのかしら。
「ステファニーは素敵な女性だ。彼女を幸せにすることが、我の使命である。この尾の先が尽きるまで愛し抜くと誓う」
尻尾の先に誓う意味がよくわかりませんが、竜にとっては当たり前の表現なのでしょう。アグニ様や他の竜の方々も頬を緩めて頷いています。どうやら最上級の愛の発言をされたようですわ。
今後はこういった竜の言い回しやしきたりも覚えなくてはいけません。私は竜帝陛下の妻になるのですから。
「とても綺麗だ、ステファニー。我が愛しの……妻よ。さあ、人々に愛を誓おう」
この半年の間にかなり慣れましたが、やはり蕩けるような声は耳が赤くなってしまいます。愛する人の手を取って、民の前で愛を誓う――当たり前のようで、去年の私には想像できない未来でした。
「はい、テユ様」
2人で並んで向きを変え、民に向き直りました。赤いアイルの両側に並んだ貴族や民に、ヴェール越しに微笑みます。こんなにたくさんの方が祝ってくれて、笑顔で嫁ぐことが出来るなんて、今までの人生で最高の日ですね。
「我、テュフォン・ラ・ソル・シエリスタ・ティーターンは、竜の乙女エステファニア・サラ・メレンデスを妻とし、我が命が尽きるまで愛し抜くことを、竜帝の名にかけて誓う」
「私、エステファニア・サラ・メレンデスは、竜帝陛下テュフォン・ラ・ソル・シエリスタ・ティーターンを夫とし、命尽きるまで愛し、共に国を栄えさせることを竜の乙女の名において誓います」
わっと沸き起こった「おめでとう」の祝福と同時に、人々が手にした花束から花弁を千切ります。それをシャワーのように上に向けて放り投げました。頭の上まで届かせたい思いを汲み取った風の精霊により、花片はひらりと舞ってアイルと私達の上に降り注ぎます。
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