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「アオイ兄でしょ?」
過去の名を口にされ、互いに確信を得たのでしょう。でも「兄呼び」ですの?
「今はアグニだ」
肩を竦めた赤竜アグニ様の言葉に、フランカが肩を揺らして小さく笑いました。
「前世以来ですわね、アオイ兄様」
「やめろ、気持ち悪い。前の口調でいい」
どうやら本当に前世で兄妹だったみたいです。あらまあと驚いて口元を手で覆えば、テユ様も初耳だったようでした。共有で情報を得たのが今なのでしょう。久しぶりの兄妹の再会ですわね。
気を利かしたのか、飲み物を取りに行くとリオ兄様は席を外されました。大人な対応もできますのね。
「アオイ兄に最後に買ってもらったゲームの世界だって気づいて、自分だけと思ってたけど……アオイ兄が先に来てたなんてね。道理で話の流れがおかしいと思った」
口調がすっかり変わっていました。妹のカリン様でしたか。フランカの優雅な見た目で、その口調は似合いませんね。見た目は侯爵令嬢で、あと2ヶ月で公爵夫人となられるのですが……。
美しく生まれ変わったフランカとアグニ様が、過去のあれこれを語り合うには時間が足りなくて。
ゆっくりとシャンパンを運んだリオ兄様からグラスを受け取り、アグニ様はすぐ口をつけました。喉が渇いておられたのか、一度止めた手を傾け全て飲み干されます。緊張しておられたかも知れません。
微笑ましい気分で前世の兄妹を見守りました。以前に前世の話をフランカに少し聞いていたので、秘密に混じれたのは気分が良いものです。知ってる優越感と申しましょうか。でもこの場の全員が共有しているのですけれど、仲間外れにならなかったのが嬉しくてテユ様の袖をちょっと引っ張りました。
「ステファニーも知っていたのか」
「はい、少しだけ」
こんな会話が擽ったいのです。
フランカに、近々会いに行く約束を取り付けたアグニ様はほくほく顔。もちろん、リオ兄様同席でなければ会わないという条件付きでした。
ここまで婚約者に執着され愛されるフランカの姿を、前世のお兄様であったアグニ様……いえ、アオイ様はどんな気分で見ておられるのかしら。もしかしたら、嫁にやりたくないと前日になってゴネたお父様の気分だったりして。
「では幸せなカップルの邪魔をしないよう、失礼するとしようか」
「アグニ様、ここでは『カップル』なんて表現は使いませんの。『婚約者』や『恋人』と呼んでくださいませ」
この世界で身に着けた淑女の仕草で、おしとやかな口ぶりのフランカは――きっとアグニ様が知る妹のカリン様ではない。ロエラ侯爵令嬢のフランシスカに一礼したアグニ様は、竜の仲間のいる一角へ向かわれました。事情を共有した緑竜の兄に揶揄われながら。
なんだか素敵ですね。私も未来で、リオ兄様と再会して昔話が出来たらいいのに。
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