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第62話 まさかこんな形で生まれるなんて
――結婚式から1年ほどあったある日。
「お生まれになりました!! 姫様にございます。おめでとうございます!」
我が子の誕生を知らせる声が響きました。力んでいた腕から力を抜きます。ようやく生まれたのね。半日で産まれたら安産と聞いたけれど、その半日が長かったわ。
竜帝として勇を誇る夫は、閉ざした部屋の前を左右に行ったり来たり。痛みで感覚が鋭敏になっていたのか、それがすごく気になりました。呼んであげて――そう動かした喉に、フランカが水を流し込みました。冷たい感じにほっとします。
ところで、我が子の泣き声が聞こえないのですが?
絹糸のように細く柔らかな髪が頬や首筋に貼り付き、額の汗をガーゼで拭うアデライダ伯母様の手が気持ちいいです。
「あの……驚かないで欲しいの」
伯母様が何か言いかけた時、テユ様が部屋に入ってきました。出産を手伝ったマリエッラ様は、隣の赤子用のベッドで何か作業をしています。すごく気になりますわ。
どうして泣かないの?
疲れた怠い身体を起こそうとしますが、駆け寄ったテユ様にベッドに戻されました。ベッド先の床に膝をつき、泣きそうな顔で手を握られるのは照れます。
「あ、ありがとう。産んでくれて、本当に……ありがとう。ステファニー」
震える声で礼を口にするのが精一杯、そんな夫の姿に赤ちゃんを求めてマリエッラ様へ手を伸ばします。わずかしか動かないけれど、私の意思を察したフランカが取り次いでくれました。
「マリエッラ様、ティファは赤ちゃんを見たいのよ」
「わかりました。今拭き終わりましたから」
どうやら汚れた我が子を綺麗にしてくださったようです。泣き声は弱くて聞こえないだけなのね。安心してベッドヘッドのクッションへ身を沈めました。
テユ様の指先が緊張で少し震えているわ。
反対側で私の汗を拭い、冷たい水を口元へ運ぶのは、親友でありメレディアス公爵夫人になられたフランシスカです。初めての出産で不安だろうと、知らせを受けてすぐ彼女は駆けつけてくれました。
「陛下、妃殿下、ご覧ください。姫は美人ですわ」
どきどきしながら、お包みを受け取りました。想像より重いですね。顔を覆う布を剥いだら……半透明の球体が包まれていました。
「これ?」
「なんと立派な……産むのはさぞ大変だっただろう」
「え、ええ」
まあ、確かに大きくて出ないかと思いましたけれど。
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