第62話 まさかこんな形で生まれるなんて

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 産まれた赤ちゃんは半透明の卵でした。御伽噺のような状況に首をかしげると、説明し忘れたと竜達は顔を見合わせます。テユ様が丁寧に説明をしてくださいました。  竜同士の卵は硬い殻に覆われていますが、半人半竜の卵は柔らかな半透明の膜なのだそうです。過去に人と交わった同族の記録を共有した白青のマリエッラが、母竜の代わりに卵を受け止めてくれました。そうしないと落ちて割れてしまうこともあるんだそう。  半透明の膜のため、中が透けています。大きな金の瞳を瞬く子供は、子竜の形でした。本体が竜なのでしょう。これが人の血を多く受け継ぐ子だと人型の場合もあるらしいのですが。  竜から見て元気な赤ちゃんなら問題ありません。卵を産むとは知りませんでしたが、つるんと生まれたのでしょうか。よくこの大きさの卵が出てきたものですわ。  フランカに水を貰い喉を潤してから、声を絞り出しました。ぼんやりする頭と激痛に苛まれる全身は、まだ出産中の痛みを引きずっています。 「テユ、様。この子に、名前を……」  まだ痛みの余韻の中にいる私の要望に、テユ様は慌てていました。男でも女でも良いように名前をいくつか考えていたのに、候補の紙を執務室に置きっぱなしになさったみたい。  興奮と感動で潤んだ瞳のテユ様なんて、初めて見ました。 「……クラリーサで、どうだろうか」  金の鱗と瞳を持つ輝く彼女にぴったり。見た目からとった名は、当初の候補になかったと思います。それでも卵を抱きしめた時に浮かんだ単語だと仰られました。  父である竜帝と私の黄金の瞳を受け継いだこの子には、『光り輝く』を意味するクラリーサが似合います。 「美しい響きですわ」  フランカが頷くと、驚いていたアデライダ伯母様も嬉しそうに微笑まれました。抱いた卵は思ったより重くて、薄い膜では割れてしまいそうです。抱くときに気を付けないといけませんね。 「クラリーサは、いつ出てくるのですか?」 「好きな時に割って良いそうだ」  膜はぱんと張っているが、(つつ)くと柔らかく弾力があります。卵の形のぬいぐるみのようで、ほんのり温かくて抱き心地は最高でした。割っても良いと言われ、私は目を瞬きます。 「割るのですか?」 「待っても良いが、いつになるか。この子次第だぞ」  さすがに数日で出てくるとは思うがわからない――そう聞かされると、割った方が良いのかしら? と思いました。竜族同士の卵なら自分で割って出る掟があるのですが、半人半竜なので拘る必要はないのでしょう。きょとんとしたフランカが、指先で卵を突きました。 「割り方は決まってますの?」  卵の割り方を尋ねるフランカは、どうせなら姪が出てくるところを見たいようです。伯母様も期待の眼差しですね。卵に手のひらを当てて首をかしげました。いくら3人のお子を持つ伯母様でも、卵の処理はわかりませんものね。 「ステファニーが、出てきて欲しいと願いながら卵に手を入れれば、すぐにでも」
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